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地主のメリット

メリットの1番は土地の有効活用と地代収入です。
日本の面積は狭く、約70%が森林で占められています。
つまり住宅地や商業用地などとして活用できる面積は、そもそも少ないのです。
にも関わらず、使っていない土地をそのままにしておくとなれば国民にとっても大きな損失になります。
自分では使わないなら、人に貸して活用してもらうべきなのです。
もちろん、借地権を設定して相応の地代で貸すことができれば、地主には地代収入が入ります。
また人に土地を貸すと、税金面でもメリットが高くなります。1つめは相続税の軽減です。
相続税には控除額というのがあり、現在のところ5000万円+1000万円×法定相続人の数までは相続税がかかりません。
相続税が発生する人は亡くなった方に対して極めて低い割合で平成22年度でいえば、死亡者約120万人に対し相続税が課税された人は約5万人で、全体の4.2%程度に過ぎません。
しかしこの大半が、土地をたくさん所有している資産家と言われています。
もっとも資産家とは言われても、当人たちにしてみれば、土地は所有しているけれど、相続税を支払う現金はないということが多いのです。

地主のデメリット

できれば相続税の負担を減らしたいと考え、様々な節税対策を行うことになります。
相続税の課税対象とされる土地は時価で評価されるのではなく、路線価や固定資産税評価額という時価の60%~70%相当の価格で評価が行われます。
時価に比べればだいぶ軽減されますが、さらに軽減する方法として借地権の設定があります。
借地権は借地人を強く保護する権利で、一度貸せば、長く自分は使うことができなくなるため、その負担分が控除されるのです。
借地の相続税評価額は、土地の相続税評価額×(1-借地権割合)となり、相続税評価額5000万円の土地で借地権割合が60%であれば、2000万円まで下がります。
もう1つが固定資産税や都市計画税の軽減です。
土地を全く使わず放置し何の収益を生まなくても、毎年、固定資産税や都市計画税が課税されます。
その負担は意外に大きいものです。
その上、近隣に迷惑をかけないよう草刈りをしたり等の手間や費用もかけなければなりません。
しかし他人に土地を貸せば、これを地代の一部から賄うことができますし、固定資産税や都市計画税の軽減が受けられるのです。
他人に土地を貸している間も、固定資産税や都市計画税は土地の所有者に課税されます。
商業地等の固定資産税や都市計画税は時価の70%を課税標準として税率がかけられます。
これに対し住宅用地の場合、課税標準額が6分の1に軽減され、支払う税金が大きくダウンするのです。
他人に貸した土地でも、借地人が住宅を建てて暮らしていれば住宅用地に該当します。
これに対し地主のデメリットの1番は、自由な使用ができなくなることです。
たとえば親の代に貸した土地は、子供世代も地主の地位を相続します。
しかしその子供はその土地でパン屋を開きたいとか、レストランを経営したい、もっと地代を支払ってくれる人に貸したいなどと思うかもしれません。
しかし普通借地権にせよ定期借地権にせよ、存続期間が長く、普通借地権にあたっては
正当事由がない限り更新拒否が認められません。
仮に正当事由が認められたとしても、高額の立ち退き料を支払わなければならないケースがほとんどです。
もう1つのデメリットが、借地人や近隣住民とのトラブルの発生です。
借地人と地代の額や更新などを巡ってトラブルが生じる場合もありますし、借地人が何か近隣に迷惑をかける行為を行うと、地主にクレームが入る場合が多くなります。

底地権(地主)の方 Q&A

当該工事が土地の利用にとって必要又はその価値を増加するものであれば、地主は工事費を支払わなければなりません。

【詳細解説】

まず、地主(賃貸人)が借地人(賃借人)に対して負っている義務について整理してみましょう。
①  使用収益させる義務
民法601条:「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」
②  修繕義務
民法6061項:「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。」
③  費用償還義務
民法6081項:「賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。」
民法6082項:「賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第百九十六条第二項の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。」
608条1項が準用する民法1962項:「占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。」 
 今回の事例で問題となっているのは③の費用償還義務になります。
 借地人が行った工事が必要費、有益費に当たる場合には、地主は費用を支払う必要が出てきます。
 具体的に見てみましょう。
 (1)まず、必要費にあたるか否か。
 必要費とは、家屋であれば雨漏りの修繕など賃貸借の目的物を使用するのに「必要」な場合にかかる費用です。
 今回の工事が、土地を利用する際に必要不可欠な工事であった場合には地主は借地人からの請求を拒むことは出来ず、しかも直ちにその費用を支払う必要があります。
(2)有益費について
有益費とは、(土地を改良して)その価値を増加させた費用のことです。
 必要費に当たらない場合でも、借地人の行った工事が土地の価値を増加させるものである場合には、地主はその費用を支払う必要があります。
 具体的な金額については、1962項:「…(賃借人の)選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる」とあり、実際に支出した金額もしくは、増加額のどちらかを選択して請求することが出来ます。
借地人としては、工事費よりも土地の価値の増加額のほうが上回っていれば、増加額を請求することになると考えられます。
ただ、有益費の場合には、6082項にあるように「賃貸人は、賃貸借の終了の時に、…」有益費を支払えばよいことになっています。
仮に、地主(賃貸人)が有益費の支払いを拒んだ場合、借地人はその費用が支払われるまで、明け渡さないと主張することができます(留置権の行使が可能)。
※留置権:民法2951項:「他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。」
とあります。

一時使用目的の借地権の設定があります

【詳細解説】

1. 事業用定期借地権  まず、借地契約の期間について短い期間、土地を賃貸する方法としては、「事業用定期借地権」を設定することが考えられます。
しかしながら、「もっぱら」事業に供する必要があり、また、「事業用定期借地権」を利用する場合にも、期間は10年以上とする必要があります。
したがって、数か月間や1年程度だけ土地を賃貸したい場合などには「事業用定期借地権」は適さないことになります。
2、一時使用目的の借地権 そこで考えられるのが、一時使用目的の借地権です。
借地借家法には次の規定があります。
民法369条:「抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。」
とあります。
簡単に言うと、一時使用目的の借地権は借地契約の期間についてのルールが適用されず、数か月程度の短期間の借地契約を締結することも可能になるということです。
ただ、仮に契約書の記載で簡単に適用を排除できるとすると,適用排除とする契約が流行ってしまう可能性があります。
借地借家法は借地の保護を主な目的としており、適用廃除がまかり通ると、弱い立場の借地人は地主の言いなりにならざるをえません。
それでは借地借家法の存在意味がないので,借地借家法は契約で排除できないのが原則とされています。 
 
一時使用目的という目的がハッキリ、明確になっている場合だけに限られるということです。
参考判例を見てみましょう。
参考判例:最高裁昭和45年7月21日
判旨:「土地の賃貸借が…一時使用の賃貸借に該当し、同法一一条の適用が排除されるものというためには、その対象とされた土地の利用目的、地上建物の種類、設備、構造、賃貸期間等諸般の事情を考慮し、賃貸借当事者間に、短期間にかぎり賃貸借を存続させる合意が成立したと認められる客観的合理的理由が存することを要するものである。…」
と基準を設けています。
 つまり、単に期間を短く設定するだけで「一時使用目的の借地権」となるわけではなく、短い期間を設定する目的や契約の経緯等の事情を総合的に考慮して、契約期間を短期間に限ることの客観的かつ合理的な理由が必要になるということです。
例えば、短期間の契約が何度も更新されているとか、借地人が長期間使用可能な建物を建てることを地主が認めているとか、借地契約の際に高額の権利金を受領しているといった事情があると、「一時使用目的」とは認められにくくなります。.

地主は転借人に対して土地の明渡しを求めることができます。

【詳細解説】

1、まず、転借人と地主との関係は…
民法613条:「賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う。…」
とあります。
本来であれば転貸借契約は借地人(転貸人)と転借人の2当事者間のみのことではありますが、転借人も大元の地主(借地権設定者)に対して直接義務を負うことになるということです。
借地人(転貸人)と転借人との間の転貸借契約は、地主と借地人との間の有効な借地契約の存在を基礎とし、その上に成り立っている契約であることから、直接義務を負うこととされているのです。


2、借地人が地主に対して地代を支払わないことの影響
地主と借地人との間の借地契約の債務不履行にあたります。
【最判昭28年925日】
判旨:「賃貸借が当事者の個人的信頼を基礎とする継続的法律関係であることにかんがみ、…賃貸借関係を継続するに堪えない背信的所為があったか…(債務不履行があっても)背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては同条の解除権は発生しないと解するべきである」(信頼関係破壊の理論)
とあるように信頼関係が破綻される程度に賃料の不払い(1ヶ月や2ヶ月では足りません)があるとそして、地主は借地契約を解除することができます。


3、解除後の関係
解除が有効となった場合、地主の承諾を受けて借地人(転貸人)から土地を転借している転借人は、地主に対して土地を明け渡さなくてはならないのでしょうか。
 この点、前述のように借地人(転貸人)と転借人との間の転貸借契約は、地主と借地人との間の有効な借地契約の存在を基礎とし、その上に成り立っている契約です。
 したがって、地主は、借地人(転貸人)との間の借地契約を解除したうえで、転借人に対して土地の明渡しを求めることができます。
参考判例【最判平9年225日】
判旨:「…賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了すると解するのが相当である。」
 としています。
 (借地人)転貸人の債務不履行により「転」貸借契約も終了するということです。


4、合意解除の場合
 上記の解除は「債務不履行」による解除の場合でした。
 
それでは、地主と借地人(転貸人)の契約が「合意」解除された場合も同じように考えて良いのでしょうか。
 この点につき、参考判例を見てみましょう
【最昭62年324日】
判旨:「賃貸人が賃借人(転貸人)と賃貸借を合意解除しても、これが賃借人の賃料不払等の債務不履行があるため賃貸人において法定解除権の行使ができるときにされたものである等の事情のない限り、賃貸人は、転借人に対して右合意解除の効果を対抗することができず、したがつて、転借人に対して賃貸土地の明渡を請求することはできないものと解するのが相当である。」
としています。
合意解除の場合には、債務不履行解除のような帰責性は存在しないことから、このような判断が下されていると考えられます。
 なお、その後の法律構成については、
転貸人(借地人)は合意解除により契約関係からは離脱することになり、転借人は借地人(転貸人)の地位を引き継ぎ、地主(借地権設定者)と転借人の賃貸借になると考えられています。
 

問題ありません。

【詳細解説】

民法474条:「債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、…はこの限りでない。」
同上2項:「利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。」
とあります。
第三者弁済も当然有効なので、入居者による地代支払いも有効です。
そして、入居者は「利害関係を有する第三者」に当たります。
すなわち、借地人が地代の滞納を続け、契約が解除された場合、借地人は更地にして返還する義務があります。
当然、借地建物を借りて住んでいる人は出ていかなければなりません。
それを防ぐために、地代を払って借地権が消滅しないようにすることができます。
借地人が地代を払うな。という意思を示していても、借家人が払う地代は認められますので、地主は借地権者さんの支払と同一に扱わなければなりません。
※借家人はその後借地人に地主に対して支払った地代を求償することができます。

民法500条:「弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する。」 

①の場合は建物を買い取る義務があります。
②の場合は建物を買い取る義務はありません。

【詳細解説】

借地借家法13条:「借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。」

とあり、これを建物買取請求権と言います。
 まだ利用できる建物を取り壊すのは社会的経済的に妥当ではないため、できるだけ建物を残すようにという根本的な考えがあります。
 この建物買取請求権は形成権であるため、請求した時点で売買の効力が発生します。
 ※形成権:このように単独の一方的な意思表示のみによって法律効果を生じさせることのできる権利のことを総称して形成権と言います。
通常の建物売買であれば、売主には売るか売らないかを決める自由があり、買主にも買うか買わないかを決める自由があります。しかしながら、借地人が建物買取請求権を行使した場合には、当然に地主と借地人との間で建物の売買契約が成立したのと同じ効果が発生することとされているため、地主は、建物の買取りを拒否することはできません。
 建物買取請求権が行使されると、借地人は、地主が建物の時価相当の代金を支払うまで建物を引き渡さず土地を占有することができます。地主としては、借地人に対して地代相当額は請求できますが、土地の明渡しを受けるためには建物の代金を支払う必要があります。
では、①と②の場合でどのような違いがあるでしょうか。
 ②の場合は借地人の賃料不払いという帰責事由があります。
 そのような場合にまで、地主に建物買取義務があるとすると妥当ではないという価値判断が背景にはあると考えられます。
 以下、判例を参考に考察してみましょう。

♦【最判昭29年6月11日】
※合意解除の場合
「土地の賃貸借を合意解除した借地権者は買取請求権を有しない」

としています。
これは旧法下の判例です。
地主と借地人とで合意解除により借地人が買取請求権を放棄したものと解されています。

【最判昭35年2月9日】
※地代不払い等の債務不履行や契約違反で契約解除された場合
「借地人の債務不履行による土地賃貸借解除の場合には
借地人は同条項による買取請求権を有しないものと解すべきである」(賃料不払いは賃料を支払う債務を履行しなかったとして、債務不履行に当ります。)
建物買取請求権は誠実な借地人を保護する規定であることを理由に債務不履行という
帰責事由がある場合にまでこれを認める必要性はなく、判例は建物買取請求権を否定しています。
※信頼関係破壊の理論
→判例(最判昭28年9月25日民集7巻9号979頁)「賃貸借が当事者の個人的信頼を基礎とする継続的法律関係であることにかんがみ、…賃貸借関係を継続するに堪えない背信的所為があったか…(債務不履行があっても)背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては同条の解除権は発生しないと解するべきである」(信頼関係破壊の理論)

したがって、地代の支払いがなされなかったとしても、信頼関係が破壊される程度に至っていない場合には、そもそも借地契約を解除することができないという点に注意が必要です。
※参考:買取の価格は?
この場合の建物の買取代金は、建物の時価とされています。
建物の時価を算定する際には、建物の所在地の利便性など場所的利益は考慮されますが、原則として借地権価格は含まれません。

地代の額が、諸般の事情から不相当に低くなった場合には、地主は借地人に対し地代の増額を請求することができます。

【詳細解説】

地代等(地上権の地代と賃貸借の借賃)が土地の公租公課の増減により、土地価格の上昇・低下等の経済変動により、または近隣の地代と比較して不相当となった時は、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって、地代の増減を請求できます(事情変更の原則)。
 
 ※事情変更の原則:契約締結時に前提とされた事情がその後変化し、元の契約どおりに履行させることが当事者間の公平に反する結果となる場合に、当事者は契約解除や契約内容の修正を請求しうるとする法原理 
 地代の増減請求が当事者に認められるとしても、当事者間に「一定の期間は地代を増額しない」という特約がある場合には、増額請求は認められません。
 もっとも、「一定の期間」がかなり長期間とされているような場合には公平の見地から妥当ではない場合も生じます。
そこで、特約当時には予測できないほど経済的事情が激変し、従前の地代を維持するのが著しく公平に反するような場合には、「一定の期間」が経過していなくても事情変更の原則が適用されて、特約の効力は失われ、増額請求も認められると考えられています。
地主としては、まずは、「相当であると考える金額」に地代を増額したいとの請求をすることになります。
増額請求をした日にちが後々問題となる可能性もありますので、内容証明・配達証明の郵便で送るべきでしょう。
借地人が増額請求を承認せず、話し合いでもまとまらなければ、地主は、裁判所での手続をとらざるを得ないことになります。
まずは、民事調停の申立をしなければなりません(調停前置主義)。 調停が成立しない場合には、訴訟を提起することになります。
 ※「増額」について協議が整わない場合
借地権者は裁判が確定するまで自ら相当と認める額を支払えばよいとされています。
 ただし、裁判が確定して相当額と思って既に支払った額に不足がある時は、その不足額に年1割の利息を付して支払わなければなりません(借地借家法112項)。
 ※「減額」について協議が整わない場合
  地主(借地権設定者)は、裁判が確定するまで、相当と認める額の支払いを請求できます。受領額が裁判で確定して額を超える時はその超過分に年1割の利息を付して返還する必要があります(借地借家法113項)。
継続する借地契約の地代として適正な金額を算定する方法としては、次のようなものがあります。
 
訴訟実務では、裁判官は、不動産鑑定士の鑑定意見を参考に、これら複数の方法による金額を比較勘案し、契約の経緯や個別の事情などを考慮して地代額を算定するという総合方式によることが一般的となっています。

【詳細解説】

地主には、地代債権をより確実に支払ってもらえるよう、借地人が保有している一定の財産について、法律上、「先取特権」が与えられています。
「先取特権」とは、法律に定める「特別な債権」を有する者が、債務者の一定の財産により優先弁済を受けることのできる法定担保物権になります。
※誰よりも優先して弁済されるとは限らない点は注意
例:建物の保存や工事の「先取特権」、賃借権の登記前に登記した抵当権などには優先はしません
①    一般先取特権
②    動産の先取特権
③    不動産の先取特権
と種類はありますが、ここでは賃貸借関連にしぼって解説します。
 
1  動産先取特権
(1)不動産の賃貸人はその不動産の賃料その他賃貸借関係から生じた賃借人の債務につき、賃借人の持ち込んだ「動産」(不動産以外のすべての物。家具等)上に先取特権を有します(民法312条)。
※賃貸人が敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有します(民法316条)。
 賃貸人が敷金を返還している場合、敷金相当部分については賃貸人は先取特権を主張できません(大判昭1278日民集161132頁)。
 
(2)目的物の範囲
 ①土地賃貸借の場合
  借地に備え付けられた動産、借地の利用に供された動産、及び賃借人(借地人)の占有下にある、土地の果実がその対象になります。
 ②建物賃貸借の場合
  賃借人がその建物に備え付けた動産(民法3132項)
判例(大判大374日民録20587頁)は「建物内にある時間継続して存置するため持ち込んだ動産」とし、金銭や有価証券、時計や宝石類でもその対象となるとしています。
 
2   先取特権の効力
(1)   優先弁済の方法
①    担保不動産競売
目的物が不動産の場合
②    担保不動産収益執行
目的物が不動産の場合担保不動産競売に代えて、またはそれとともに担保不動産収益執行の方法によることも可能 
③    動産競売
目的物が動産の場合には、
A 債権者が執行官に対し当該動産を提出したとき
B 債権者が執行官に対し「当該動産の占有者が差し押さえを承諾することを証する文書」を提出したとき
C 債務者の任意の協力が得られない場合には、債権者が「担保県の存在を証する文書」を執行裁判所に提出して得た「動産競売開始の許可の決定書」の謄本を執行官に提出し、かつ、それが債務者に送達された。
時に限り、競売が開始される(民事執行法1901項)
物上代位
 先取特権には物上代位性が認められます。
(1) 意味
「物上代位」とは、担保部県の目的物が「売却、賃貸、滅失または損傷」によって債務者が金銭その他の物を受け取ることになった時は、担保権者はその「代償物」に対しても権利が行使できるというものです。
(2) 物上代位の目的物
①  「売却」による代金
②  「賃貸」による賃料
目的物が賃貸された場合にその賃料に先取特権者はこの権利を行使し代金回収が出来ます。
③  「滅失または損傷」による損害賠償請求権
目的物が滅失または損傷した場合に損害賠償請求権を取得した場合には、その損害賠償請求権に対して物上代位し、債権の回収をすることが出来ます。
 
(3) 要件
 物上代位を行使するには、「払い渡しまたは引き渡し」の前に「差し押さえ」をする必要があります(民法3041項但し書き)。
①  「払渡しまたは引渡し」
目的物が第三者に払い渡され、引き渡しがあった場合には物上代位を行使することはもはやできません。
いつまでも行使できるとすると安定性に欠けるためです。
※「引渡し」に占有改定を含むか否か
  占有改定とは自己の占有物を「以後本人のために占有する」という意思表示によって、本人にその物の間接占有を取得させることを意味する。
 例:AさんがBにパソコンを譲渡したとして、その際、パソコンをBさんのために占有しますとすることで、Aさんがパソコンを持っていてもBさんのために占有している状態です。
 第三者から見ると占有状態に変化はないのですが、判例(大判大6726日民録231203頁)はこのような場合も引き渡しに含まれるとして認めています。
②  「差し押さえ」
法は「差し押さえ」を要件としています。
これは第三債務者を保護するためと言われています。
目的物を譲渡された者(第三債務者)は、誰に対して支払えばよいのか分からなくなり、2重弁済の危険性にさらさらされてしまいます。
それを防止するために、「差し押さえ」を必要としました。
 
(4) 行使方法
物上代位の権利の行使は担保権の実行の一方法となるので、「担保権の存在を証する文書」を提出したときに限り開始します(民事執行法1931項後段)執行裁判所の差し押さえ命令により再建執行として開始されます(民事執行法1932項)。 
 

契約解除に関する特約の有効性

結んだところで即契約解除は難しいです。

【詳細解説】

  一般的には
 一般に、契約は債務の不履行があれば、相当期間を定めて催告し相当期間内に履行がなければ解除することができます(民法6122項)。
 しかし、借地契約は、1回限りの履行がなされる契約と異なり、継続的に借地人が土地を使用収 益する点に特徴があります。
判例(最判昭28925日民集79979頁)も、6122項は「賃貸借が当事者の個人的信頼を基礎とする継続的法律関係であることにかんがみ、…賃貸借関係を継続するに堪えない背信的所為があったか…(債務不履行があっても)背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては同条の解除権は発生しないと解するべきである」(信頼関係破壊の理論)。
そのため、仮に、「1か月分でも地代の支払いが遅れたら催告なしに契約を解除することができる」という特約を入れていたとしても、1か月分の支払いの遅れだけでは、まだ信頼関係が破壊されているとまではいえず、契約の解除は認められないと考えられます。
 また、信頼関係が破壊されたといえるかは、地代滞納の期間、借地人の態度、支払遅延にやむを得ない事情があるかなど、様々な事情を斟酌して判断されることになります。

 
2  賃貸借契約の解除について
上述したように賃貸借契約は信頼関係に基づく継続的契約です。
解除は解除権が行使されると原状に復する義務(原状回復義務)が発生すると解されていますが、賃貸借契約のような継続的契約にその原則を適用すると妥当ではありません。
というもの、すでに正当に履行された利用関係を原状に復して、契約を無効とするのは無意味で、妥当ではありません。
そのため、賃貸借契約が解除された場合には、将来にむかってのみ、その効力を生じることとしました(民法620条)。
 
3  催告の要否
一般的な解除は履行遅滞→催告→解除という手順を踏むのが原則です。
「解除をします」という催告を必要としないと、債務者に不測の損害を与える場合があるためです。
ただ、判例(大判昭777日民集111510頁)によると、賃借人の違反行為が著しく信義に反するときは無催告解除も認めています。つまり、「解除をしますよ」という催告をすることなく、直ちに解除できるということです。
 逆に些細な債務不履行では、権利濫用ないし信義則に反しないとして解除を認めないとしています(賃貸借契約の場合は信頼関係理論が適用されます)。
 賃貸人は、賃借人の違反行為が著しく信義に反するか否かは不明な場合も多いので、一般の解除と同様に催告をすることで、契約を解消するよう進める方が後々も問題発生を回避することが出来ます。 
 

Cさんは土地の所有権移転登記後には、地代を請求できます。

【詳細解説】

まず、基本的に契約と言うのは二当事者間の上に成立するのが原則です。そうすると、契約上の地位(賃貸人)を移転するには相手方(ここでは借地人)の同意がいるのが通常の契約です。
例えば、絵を描いてもらうと言う契約を結んだ場合、絵を描く人が変わる場合、書いてもらう人(債権者)の同意を得るのは当たり前ですよね。
しかし、賃貸借契約は賃貸人が誰になろうと賃貸人の義務内容に大きな変更はないので、相手方(借地人)の同意は不要で旧賃貸人と新賃貸人との契約で済みます。
そうすると、新賃貸人は旧賃貸人の地位を当然に承継し、旧賃貸人は契約関係から離脱します。
本問ではAからCへの土地の売買により賃貸人たる地位が当然に移転し、Aは契約関係から離脱します。 
さて、賃貸人たる地位が移転するということは、新賃貸人は賃借人に対し賃料(地代)を請求する権利も当然に承継します。 
ここで賃借人の立場になって考えてみましょう。
賃借人は旧新賃貸人間の売買を感知することが難しい場合もあります。
 本当は土地の売買も無く新賃貸人になっていないにもかかわらず、賃貸人を装い賃料を請求してくる場合もあるかもしれません。
 Bさんとしては、誰に払ってよいか、また二重に請求された場合どちらに払ってよいか分からないと困ってしまいます。
 そこで、明確な基準を画するために「登記」を必要としました。
 つまり登記がある人が真の賃貸人であり、賃借人は登記名義人に賃料を支払えば賃料支払い義務は履行されたことになります。
 本問においては、Cさんは土地の所有権移転登記をすれば、Bさんに賃料請求が出来、Bさんは登記名義人であるCさんに賃料を支払うことになります。
 
※補足
借地人が敷金を預けている場合
また、旧賃貸人と賃借人(本問ではAB間)で賃貸借契約締結の際、敷金を納めている場合はどうでしょうか。
この点について判例では、敷金返還義務は新賃貸人に承継されることとしています(最判昭44717日民集2381610頁他)借地契約終了後は新地主(新賃貸人)が返還することになります。
ただ、賃貸借契約終了後に賃貸人が変更になった場合には、当然に新賃貸人に移転することは無く、賃借人の承諾がいります(最判昭4822日民集2861152頁)。
敷金は契約終了までの債務不履行による損害を担保するものであるので、既に契約が終了している場合は当然に移転させる必要は全くないからです。

地主が借地契約の更新を拒絶するには?

要件を満たせば認められます。

【詳細解説】

借地借家法6「…借地権設定者(地主)及び借地権者(借地人)…が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ…できない。」
とあります。
整理すると…
  「借地権設定者及び借地権者さんが土地の使用を必要とする事情」
→その土地を必要とする事情が、地主さんと借地権者さんでどちらが強いのかということです。
お互いの土地の必要性を総合的に判断してどちらがより土地を必要としているかと言う観点から判断します。 
 
  「借地に関する従前の経過及び土地の利用状況」
→更新料等の授受していたのか、地代の支払いに滞りがなかったかといった、借地における諸事情を考慮にいれます。
地代の支払いに怠りがある場合などは、賃借人にとっては不利益な事情として斟酌される場合が多いです。
  「借地権設定者が土地の明渡しの条件として、又は、土地の明渡しと引換えに借地権者さんに対して財産上の給付をする旨の申出をした場合」
→いわゆる地主さんが明渡料を提案したかどうかということです。
※明渡料は正当事由の補完的な要素と考えられており、十分すぎる金額を提示したとしても、借地権者さんの土地利用の必要性が高い場合は、正当事由が認められないことが多いです。
以上をまとめると正当事由の判断は、まず、
「当事者双方の土地建物の使用を必要とする事情」を判断し、
これがある程度認められる場合に・・・
「借地借家の従前の経緯、土地建物の利用の状況」を考慮した上で、最終的に、
「立ち退き料の有無、多寡」を補完事情として、正当事由が認められるのか否かを判断していくことになります。
 
※旧法との比較
 旧借地法では、借地法41項:「土地所有者が自ら土地を使用することを必要とする場合その他の正当事由」とあります。
この条文時代は正当事由を巡って多くの争いが発生していました。
そこで判例(最大判昭37.6.6)は「単に土地所有者側の事情ばかりでなく、借地権者側の事情をも参酌することを要し、たとえば、土地所有者が自ら土地を使用することを必要とする場合においても、土地の使用を継続することにつき、借地権者側がもつ必要性をも参酌した上、土地所有者の更新拒絶の主張の正当性を判定しなければならない。」としました。
これは、借地借家法での条文にも引き継がれています。
借地借家法6「…借地権設定者及び借地権者が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況…を考慮して…」に表れています

資材置き場として使う約束がBが許可なく建物を建築

解除が認められる可能性が高いです。

【詳細解説】

一般に、契約は債務の不履行があれば、相当期間を定めて催告し相当期間内に履行がなければ解除することができます(債務不履行に基づく解除権の発生)。
ただ、賃貸借契約は他の契約とは異なっている部分があるので、賃貸借契約特有の側面をも考える必要があります。
借地契約(賃貸借契約)は、1回限りの履行がなされる契約と異なり、継続的に借地人が土地を使用収益する点に特徴があります。
このような賃貸借契約は賃貸人(地主)と賃借人(借地人)両者の信頼関係に基づく関係にあるのが通常の契約と異なります。
例え、1度の債務不履行(例:1ヶ月分の地代の未払い)があったとしても信頼関係が破綻するかというとそうではありません。
また、このような場合に直ちに解除を認めると社会通念上不都合な場合が多く出てしまいます。
(例:一ヶ月分の地代を払わないだけで、解除できるとすると、賃借人はすぐに退去を迫られることが多くなってしまいます。)
一方で信頼関係が破たんした場合まで解除が出来るとすると地主の保護の観点から妥当ではありません。
そこで、賃貸人賃借人との間で信頼関係が破たんするような状況か否かと言う側面から解除を認めるか判断する必要があります(信頼関係破壊の理論)。
 
 では、本問についてはどうでしょうか。
地主Aさんは土地資材置き場にする目的で土地を貸したため、用法違反であることは明確です。
ただ、上記のように信頼関係を破綻する行為か否か、という側面から考える必要があります。 信頼関係を破綻したと認められない場合には、解除は出来ないことになります。

まず「資材置き場」で利用するのと「建物保有目的」で土地を利用する場合とで違いはあるのでしょうか。
①   「資材置き場」で利用する場合
こちらは、通常賃貸借契約になります。
つまり、民法の原則通りの賃貸借契約ということです。
  そうすると、賃借権の登記をしない限り第三者に対抗することは出来ませんし、期限を定めずに契約をした場合、賃貸人はいつでも契約終了を申し入れることが出来ます。
②   「建物保有目的」で利用する場合
建物所有目的の場合借地借家法の適用も考えられます。
 借地借家法21号「借地権 建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう。」
 とあります。
 借地借家法では、賃貸借の登記が無くても、建物が存在し、建物登記があれば、借地権を第三者にも主張することが出来ますし、存続期間も手厚い保護が法律上認められています。
 
このように、建物を所有する目的で土地を貸した場合と、それ以外の目的で貸した場合では、借地借家法の適用があるかどうかという非常に大きな違いが生じることになります。
以上からしますと
Bさんは信頼関係を破綻させるような土地利用をしているといえ、Aさんは契約を解除することが出来ると考えられます。
 ※損害が生じた場合にはその賠償を請求することも可能です。
 事前にトラブルを防ぐためには、定期的に現地に行ったり、借主とのコミュニケーションを取ることが重要です。
なお、建築の途中で事実を知った場合には、裁判所に対し、仮に建築工事の続行を禁止するよう申し立てることも有効な手段と言えます。
Q : 地主AさんはBさんに土地を貸しています。もう長い間土地を貸していてそろそろ更新するか否かと言う時期になってきました。
借地借家法は旧法と新法があると聞きました。更新が迫りB(借地人)さんと更新しようとしていますが、新法と旧法どちらが適用されるのですか?また、具体的な違いは何ですか?
A : 平成481日「以降新たに」土地賃貸借契約を結んだ場合
→新法の適用。
平成4731日「以前」に、土地賃貸借契約を結んでいる場合
→旧法の適用。
※旧法の借地権で契約を更新しても、新法ではなく旧法のままの取扱いになります。
【詳細解説】
現在の借地借家法(新法)は建物保護法、借地法、借家法を改革・統合して平成3年に制定、平成4年に施行(81日施行)された法律になります。
借地借家法が施行された平成481日以前から存続する借地権に対しては、廃止された旧「借地法」が、引き続き適用されることになっています。
※当事者で合意する場合は新法適用可能
 
<主な違い>
   借地権の存続期間
新法では建物の種別に関係なく一律に30年(当初の期間)
※尚、当事者間でこれより長い期間を定めることは自由です。
旧法の場合、堅固建物と非堅固建物で存続期間が異なります。
堅固建物はコンクリート造りなどの丈夫な建物とイメージして下さい。非堅固建物は木造建築が一般的です。
堅固建物で30年、非堅固建物で20年が原則になります。
※これより短い期間を定めた場合には 「期間の定めがないもの」とみなされます。
「期限の定めがない」場合でも無限に借地権が存続するわけではありません。
堅固建物は60年、非堅固建物は30年となります。
   借地権を更新した後の存続期間
新法では、1回目が20年、2回目以降は10年が原則になります。
当事者間でこれより長い期間を定めることは自由です。
旧法では、堅固建物が30年、非堅固建物が20年です。
<まとめ>
   建物が朽廃した場合における借地権
(1) 旧法では、存続期間の定めがあるか否かで異なります。
1、存続期間の定めがあるとき
建物が朽廃しても借地権は消滅ません。
2、存続期間の定めがないとき
建物が朽廃すると、その借地権は「消滅」します。
(2) 新法
 借地権は消滅せず、契約期間は借地権が存続します。 
 
④  建物が「滅失」してしまった場合
(1) 旧法
建物が滅失してしまった場合には、借地権を第三者に対して主張することが出来なくなってしまいます。
(2) 新法
消滅した場合でも借地権を第三者に主張する規定が設けられました。
借地借家法102項:「…建物の滅失があっても、借地権者が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨土地の上の見やすい場所に掲示するときは、借地権は、なお同項の効力を有する。…」
とあり、消滅しても土地上に掲示すれば借地権の効力は継続されます。
ただし、同条文には「建物の滅失があった日から二年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物につき登記した場合に限る。」
とあり、2年以内に建物を新たに建て登記をする必要があります。
 
   朽廃や滅失した場合などにおける再築
 
(1) 旧法
残存期間を超えて存続する建物を建てる場合、地主は原則として解除が出来ず、それに建物がなくなった日から堅固建物で30年、非堅固建物で20年、借地期間が延長されます。地主が遅滞なく異議を述べる場合は異なります。
(2) 新法
1、再築が1回目の更新前(契約期間内)の場合
地主の承諾があれば20年の期間延長となりますが、承諾がなければ残存期間内での保護になります。
2、1回目の更新以降
地主の承諾を得ていなければ、地主は契約を解除できることができます。
地主の承諾がない場合は「地主からの解約申し入れ」だけで借地権が消滅してしまいますから、注意しなければなりません。 
 
   地主が更新を拒絶する場合
(1) 旧法
地主が借地契約の更新を拒絶する場合「正当な事由」とされていました。
(2) 新法
新法では財産上の給付(立ち退き料の支払い)だけでも更新を拒絶できる場合もある。
 
※旧法では、借地法41項:「土地所有者が自ら土地を使用することを必要とする場合その他の正当事由」とあっただけで正当事由を廻り多くの紛争が発生していました。
この条文時代は正当事由を巡って多くの争いが発生していました。
そこで、新法では借地借家法6条「…借地権設定者及び借地権者が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況…を考慮して…」借地権者側の事情をも斟酌することを要することにしました。

使用借権(使用貸借)と借地権の違いについて

使用貸借とは他人の物を無償でかりて、使用収益をする契約になります。ポイントは「無償」です。

【詳細解説】

民法593条:「使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。」
とあります。
例えば、友人から本を無償で借りる場合も厳密には使用貸借に当たります。
無償ということもあり、通常の賃貸借よりも保護される範囲は狭くなっています。
民法5971項:「借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。」
同条2項:「当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。」
同条3項:「当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。
とあります。
特に返還の時期や使用収益の目的を定めていない場合には貸主はいつでも返還請求をすることができ、借主はこれに応じなければなりません。
土地であっても直ちに返還する必要があります。
 
 
《賃貸借と使用賃借の異同》

賃貸借

使用賃貸

債権関係

有償

無償

目的物の新所有者に対抗可能

目的物の新所有者に対抗不可

対抗要件を具備すれば妨害排除請求も認められる

そもそも妨害排除請求権は認められない

貸主の修繕義務あり

貸主の修繕義務なし

借地契約の注意点
借地契約を結ぶときに注意しなければならないことは大きく3つあります。
 
①    契約書を作成しておくこと
②    すぐに土地が返ってくると思わないこと
③    地代の不払い等契約違反を起こさないか
 
①について
民法上は、契約書の作成を契約の成立あるいは有効要件とはしておらず、契約書は民法上では作成が義務づけられてはいません。
 しかし、当初の契約内容を全て記憶しているわけではなく、口約束だけの取引では危険性が大きいことは予想できると思います。
地代についての契約の内容については細かく契約書を作成することで、事後のトラブルの際に役立つことは言うまでもありません。
契約書内に条項を細かく明確に文書化して保存管理しておく必要があります。
 また、民法の原則として「契約自由の原則」というものがあります。
公序良俗に反しない限り、その契約内容は当事者間の自由ということです。
賃貸人との間で特約をしているときは、特約は原則として有効となり、賃借人は特約に従わなければなりません。
そのような内容も当然契約書に反映しておくべきです。
そして、契約は口頭でも成立する以上、記名や押印も契約成立の要件とはされませんが、
記名押印もしておいた方がよいでしょう。
裁判になった際も有利に進められます。
②について
借地借家法3条:「借地権の存続期間は、三十年とする。ただし、契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間とする。」
とあります。
つまり、最低でも30年土地を貸し出す必要があるのです。
借地借家法のもとにおいて、普通の借地権の存続期間は30年以上であり、期間満了時に借地人が契約の更新を請求したり、または、土地の使用を継続していたりすると、貸地人に更新拒絶の正当事由がない限り、借地契約はさらに更新されることになります。
旧借地法のころから、いったん土地を貸したら返ってこないなどと言われ、土地所有者に対し、借地契約の更新により半永久的に土地を貸さなければならないという不安を発生させ、結果として、貸地をすることを拒むという実態がありました。
そこで平成3年の改正により、更新が無い「定期借地権」という制度が新設されましたが、こちらについては…
借地借家法22条:「存続期間を五十年以上として借地権を設定する場合においては、第九条及び第十六条の規定にかかわらず、契約の更新(更新の請求及び土地の使用の継続によるものを含む。次条第一項において同じ。)及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第十三条の規定による買取りの請求(建物買取請求)をしないこととする旨を定めることができる。」
とあり、更新・建物買取請求がないですが、最低「50年以上」借地権を設定しなければなりません。
信頼している人に貸すのであり、返して欲しいといえば、すぐ返してくれるだろうという考えは厳禁です。
いずにせよ、長い期間土地は帰ってくることが無いと考え、土地を貸し出す方が良いでしょう。
③について
借地人が、将来、資力不足で地代の不払いなどを起こす可能性もあるので、借地人の職業や家族構成を把握しておくことが重要です。
また、地代などはしっかり支払っても契約を順守しないことも考えられます(用法遵守違反)。
そのため、借地人がどのような人か、可能であれば第三者の意見を聞いて本当にこの人に土地を貸しても大丈夫か、慎重に考える必要があります。

朽廃とはどんな状況?

   朽廃とは建物が時間の経過によって社会的経済的価値がなくなることを指します。

【詳細解説】

朽廃とは建物が時の経過によって自然に損傷して、人が住むに耐えられない程度に傷んだ状態をいいますが、人が解体することはもちろん、火災や台風、地震等で倒壊した場合は朽廃にはあたりません。
老朽化して人が住めなくなるといえばイメージしやすいかと思います。
具体的には手で押して倒れるぐらいが朽廃の目安と言われることもありますが、朽廃の状態については裁判でも判断が分かれたりと、難しいものなので個別具体的に見る必要があります。
 
※朽廃を認定した判例
①築後60年を経過し、屋根瓦がずれ落ち雨漏りの箇所が多く、周囲の壁は崩壊し大穴があき、柱、板類、土台等は腐食して再びそのまま柱として使用できるものはなく、板類も使用に耐えるものはほとんどなく、修理するとしても新築に近い大改造を要する場合。
   すでに63年余を経過し、柱の大半は下部が腐食、屋根には一部雨漏り、周囲の壁も一部くずれ落ち、家屋の西側や北側が相当に傾斜し、倒壊のおそれのある状態で、近隣の人、警察からも警告があった。
という例があります。
 
※老朽化との違い
建物が経年劣化により、建物自体の性能や品質が落ちていく状態をいいます。
人が居住することは可能な状態です。

底地・借地:借地権割合とは?

  借地権割合」は、更地価格に対する「借地権価格」の割合をいいます。

 【詳細解説】

借地権付土地の底地の価格は、借地権の価格よりかなり低いことが珍しくありません。
底地に比べて借地権は、大きな財産的価値を有します。
また、借地権も当然、相続の際には課税の対象となります。
 財産の評価をするために、標準的な借地権割合を公示するものとして、路線価図に記載されている借地権割合があります。
この路線価図や評価倍率表は、国税庁のホームページで閲覧することができます。
 個々の借地における借地権割合は、借地契約の内容によって異なりますが、一般に地価が高い地域ほど借地権割合は高くなり、東京の商業地では、借地権割合が80%~90%というところもあります。
 
 例:1,000万円の土地の場合、借地権が800万~900万円、底地価格が100万円程度ということになります。 
 
※「借地権価格」とは、借地権の有する価値のことを意味し、住宅用か事務所・店舗用か、地代の額、継続年数、建物の経過年数・公租公課とのバランスなどの諸要素をふまえたうえ、評価されるものです。
更地価格にいわゆる「借地権割合」を乗じることで算定される金額は借地権価格のひとつの尺度と考えるべきです。

借地:借地権単独で売却できるのか?

  基本的には単独で売却できます。

第三者への売却の場合…
①   借地権を買いたいという人がいること、
②   地主さんからの承諾が得られることが条件になります。
※借地権の売却には地主の承諾が絶対条件となるため、事前に地主の意向を確認することが最優先です。
※借地人が第三者に借地権を譲渡する場合には承諾料(名義書換料)が借地権価格の10%ほどかかります。
ただ、借地権は売買しにくい不動産です。
地主から譲渡承諾許可が得られても、個人で第三者へ売却することは容易ではありません。
利用・処分上様々な制約があり、購入資金を調達する時に銀行融資が受けにくいため、一般的に所有権の物件と比べて次の買主がつきにくいものです。
所有権に比べると、相場の半分以下になることがほとんどですので、価格に対してあまり期待をし過ぎない方がよいでしょう。
また、場所によっては売却が出来ない場合もあります。

登記していた借地権建物が無くなったとき借地権は消滅するか?

旧法適用(平成481日よりも前)の場合、新法適用(平成481日以降)の場合、で異なります。

【詳細解説】

まず、借地権は建物があって成立する権利のため、建物が無くなった場合には借地権もなくなってしまうと考えることも出来ます。
ただ、借地権者からすると、またそこに建物を建てて住みたい場合が多いでしょうし、新しくまた土地を探すとなると経済的にも負担が大きくなります。
   旧法適用(平成481日よりも前)の場合
 平成481日よりも前に締結された借地契約について、借地上の建物が滅失した場合であっても、当然に借地契約は終了しません。
借地人は借地契約の期間中は建物を所有して借地を使用する権利をもっているため、建物が滅失しても、再築して借地を使用することができます。
 滅失した場合借地権者としては当然、建物の再築を考えます。
 ただ、地主としてはより丈夫な建物を建てられると建物の存続可能期間が伸びてしまい不都合な場合もあります。
 この点を調整するため、地主は異議を述べることが出来ます。地主が遅滞なく異議を述べたときは、もとの期間がそのまま維持されることになります。異議がない場合、借地人が、借地契約の残存期間を超えて存続する建物を再築する場合、原則として借地契約の期間は、建物が滅失した日から、堅固な建物については30年、非堅固な建物については20年となる、という期間延長の制度が定められています。
② 新法適用(平成481日以降)の場合
(1)「最初の更新の前」の滅失・再築
 借地借家法71「借地権の存続期間が満了する前に建物の滅失があった場合において、借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を築造したときは、その建物を築造するにつき借地権設定者の承諾がある場合に限り、借地権は、承諾があった日又は建物が築造された日のいずれか早い日から二十年間存続する。…」
借地借家法72項前段「借地権者が借地権設定者に対し残存期間を超えて存続すべき建物を新たに築造する旨を通知した場合において、借地権設定者がその通知を受けた後二月以内に異議を述べなかったときは、その建物を築造するにつき前項の借地権設定者の承諾があったものとみなす。…」
とあります。
簡単に説明すると…
滅失後、借地権者以前より丈夫な建物を建てた場合は、地主の承諾があれば、20年は存続することが出来ます。
なお、当事者間でそれより長い期間を定めた時はその期間によります。(借地借家法71項但し書き)
例えば、30年と合意すればそちらが優先されるということです。
地主さん側は、借地人から再築が通知された後2ヶ月以内に地主が異議を述べなかった場合には、承諾があったものとみなされてしまいます。
そのため、地主が借地契約の期間延長を望まない場合には、必ず2ヶ月以内に異議を述べることが必要です。
(2)「更新後」の滅失・再築
 これに対し、更新後の再築については、
借地借家法72項但し書き:「…ただし、契約の更新の後(同項の規定により借地権の存続期間が延長された場合にあっては、借地権の当初の存続期間が満了すべき日の後。次条及び第十八条において同じ。)に通知があった場合においては、この限りでない。」
とあります。
 更新した「後」の場合は「この限りではない」すなわち、期間延長の制度は原則として認められていません。
仮に地主の承諾を得ないで借地契約の残存期間を超えて存続する建物を再築した場合、地主は借地契約を終了させる申入れをすることができます。
※この場合借地権者は、再築にやむを得ない事情がある場合には、裁判所に対し、地主の承諾に代わる許可を求めることができます(借地借家法181項)。
 地主さんが承諾してくれない場合は裁判所が代わりに許可を与えることで、借地権を正当に継続することが出来ます。

自分の土地に息子が家を建てたら?

契約期間や税金面などで違いがあります

【詳細解説】

まず、使用貸借に基づく場合は「無償」で、賃貸借に基づく場合は「有償」(地代を払う)の違いがあります。
「使用貸借」とは「使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。」(民法593条)とあります。
 つまり「無償」で土地利用を許可する契約になります。
使用貸借は親子間などで行われることが多いです。
例えば、設問のように子どもが親から土地を借りて、子ども名義で賃貸住宅を建てる場合です。
使用貸借に基づく場合、返還時期または使用収益目的の定めがない時は、貸主はいつでも返還(明渡)を請求がきます。
借主は貸主からの返還請求があれば、原則的として土地を明け渡さなければなりません。 
 「無償」で利用している人をそこまで保護する必要はないという考えが根底にはあります。
※また使用貸借による場合、課税関係が通常の賃貸借とは異なる点に注意です。
借地はいわゆる貸家建付地にはならず、「更地」としての評価を受けるので注意が必要です

借地権・地上権の違いとは?

賃貸借に基づいて契約する方が無難です。

【詳細解説】

地上権は物権、借地権は債権
まず、物権はその物を直接的に支配することができる権利です。
例えば、所有権(物権の一種)は誰に対しても自己の所有権を主張することが
出来ますよね。
そのため、土地所有者(地主)が誰であっても利用することができます。
そうすると、土地所有者が変更しても関係なく、当然に土地を利用し続けることが可能であり、強力な権利になります。
 また、権利を譲渡する際には地主の許可は要りません。
次に、債権は、特定の人(賃貸人)に対して、土地利用を請求する権利を持っているだけです。
そのため、賃貸人(地主)が変更した場合には、新しい土地所有者に対して、賃借人は当然に借地権を主張することが出来ないのが原則です。
※現実的には地上権を設定している場合は少なく、多くは賃貸借に基づく場合に
なります。

借地権者が底地を時効取得することはあるのか?

地代の支払いがあれば原則としてありません。

【詳細解説】

民法612
1項 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2項  十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
とあります。1項が悪意取得、2項が善意取得と呼ばれるものです。
どちらも「所有の意思をもって」とあり、所有権がある意思が無ければ、そもそも時効により所有権を取得することは出来ません。
 例えば、事例のように地代を支払っている場合、「土地を借りている」ということ、つまり、土地の持ち主ではないことを認めているので、「所有の意思をもって」と言う条件が満たされず、借地権者が底地を時効取得することはありません。
※ただし、逆を言えば、借地権者が地主に対して地代も払わない場合、時効取得することがあります(※諸条件を充足する必要はあります)。

複数の人と借地契約を結ぶときの注意点

地代の回収に注意して下さい。

【詳細解説】

地主Aがある土地を複数人に貸す場合には、一番の心配は地代の回収が注意すべき点になります。
 例えば、地主ABCに土地を貸し、地代をBに請求したら、"地代はCが払うことになっている。" また、Cに請求したら、"Bが地代は支払うことになっている"ということが起こる可能性があります。
 このような契約は、BCは地主Aに対して不可分債務を有しているとされています。
 不可分債務とは… 
民法432条:「…債権者は、…債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次にすべての…債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。」
 とあります。
つまり、Bに対して全額請求することもできますし、Cに対して全額請求することもできます。
もちろん、二重に(2倍)の賃料を受領することは不当利得になり、返還することになるので、注意が必要です。

 

信託制度

1.信託とは
信託とは、(1)特定の者(受託者)が、(2)財産を有する者(委託者)から移転された財産(信託財産)につき、(3)信託契約、遺言または公正証書等による自己信託により(信託行為)、(4)一定の目的(信託目的)に従い、(5)財産の管理または処分およびその他の当該目的の達成のために必要な行為をすることです。(信託法2条1項)
 
2.信託の起源は?
  信託は,中世ヨーロッパにおいて十字軍の遠征に参加する兵士が,信頼のおける友人を受託者として土地を信託し、帰還するまでもしくは万一の戦死に備えて家族のために管理運用させて,その収益を兵士の家族に給付させ所有地が没収されず承継されるようにしたことが起源の1つとして取り上げられています。
 
3.信託の特徴は?
  通常、自分が所有権を有する財産は自分でまたは他人に委託して管理もしくは処分しますが、信託では「受託者」という第三者によって長期にわたり財産管理・処分を行うことになります。
  委託者の所有権は、契約・遺言・公正証書等によってする意思表示(「信託行為」といいます)で受託者に移転されて、受託者の信託財産となります。受託者は信託財産の名義人となり、信託財産について唯一、管理もしくは処分できる権限がある者となります。しかし、その管理もしくは処分できる権利を行使する場合は、信託の際に締結された契約の目的に拘束され、受託者は、受益者のためのみに任務を遂行しなければなりません。ここが、長期間の管理もしくはノウハウがいる処分について他人に託す通常の方法と異なる大きなポイントで、受託者との信認関係が前提となる仕組みです。

 
4.信託の機能とは?
(1)財産権の性状の転換
  委託者は、信託前は財産に対して所有権という物権的権利を持っていましたが、信託によって、そこから生じる利益を受け取るという債権的権利(「受益権」といいます)に変わります。つまり、財産権の性状が変わることになります。
(2)主体の転換
  委託者の所有権が受託者に移転して、それを受託者が管理もしくは処分することで受託者の信用・ノウハウを活用することができます。つまり、委託者や受益者の事情に左右されずに、当初結んだ信託契約の目的に沿った財産の管理もしくは処分が可能となります。また、利益を得る受益者を変更・承継により転換できます。
(3)倒産隔離
ア.委託者からの倒産隔離
  信託財産は受託者に移転されるので、原則、委託者の倒産の影響を受けません。(ただし、債務者である委託者が、その債権者を害することを知りながら、自己の債務を逃れるために信託を設定したような場合、受託者が善意であっても当該信託は債権者詐害信託となり、委託者の債権者、当該信託を訴えによって取り消すことができる、とされています。)
イ.受託者からの倒産隔離
  信託財産は、受託者が分別管理等の義務を果たしていれば、受託者からの独立性が法的に担保されており、受託者の倒産の影響を受けません。

 
5.民事信託とは?
  「信託業法」では、「信託の引き受けを営業」として行おうとする場合には、免許が必要と規定しています。「営業」とは、営利を目的として、不特定多数の者を相手に、反復継続して行われる行為をいいます。
  そこで、営利を目的とせず、特定の1人から1回だけ信託を受託しようとする場合には、信託業の免許は不要だと考えられますが、このような信託を「民事信託」と呼びます。また、今日では、財産の管理、財産の承継を目的とする信託、管理できない人に代わって管理して生活に必要な給付を確実にする信託、自己の判断能力の低下、死亡に備えて財産の管理・承継をする信託、高齢者・障害者等の財産管理・身上監護に配慮した生活支援のための信託などの信託を民事信託と呼んでいます。
  「民事信託」を使って委託者と受託者との間の信託契約をオーダーメイドで設計することにより、個人や中小企業等でも容易に活用ができることになります。

民事信託とは、受託者が限定された特定の者を相手として、営利を目的とせず、継続反復しないで引き受ける信託のことで、信託銀行の取り扱う信託商品や投資信託(商事信託)とは違い、財産の管理や移転・処分を目的に家族間で行うものとされています。
 

委託者と受託者の間で独自の信託契約を締結することで、様々なコストを抑えることができ、主に①自己信託、②限定責任信託、③知的財産権の信託、④金銭信託などがあります。
 

民事信託の中でも、『家族による家族のための民事信託』とされているものがあり、家族が財産の預り手(財産管理をする者)となり、「高齢者や障がい者のための安心円滑な財産管理」や「柔軟かつ円滑な資産承継対策」を実現しようとする民事信託の形態を『家族信託』と呼んでいたりもします。
 

あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、民事信託には遺言書や成年後見制度ではできない相続対策も多くあり、相続分野の専門家のあいだでは注目されつつある相続方法ではあるので、今回は、そんな民事信託についてご紹介していこうと思います。 
 
1:民事信託の基本的な概要
まずは民事信託の基本的な概念についてご説明していこうと思います。民事信託(みんじしんたく)は、信託銀行の取り扱う信託商品や投資信託(商事信託)とは違うということはお話ししましたが、具体的にどういった仕組みなのかを見ていきましょう。
 

民事信託の仕組み
民事信託には3人の登場人物が出てきて、財産を持っている受遺者(被相続人)、財産を管理する受託者(相続人など)、利益を得る受益者(他の相続人など)の3人から成り立ちます。
 

  • 委託者:財産を持っている人
  • 受託者:財産を管理する人
  • 受益者:利益を享受する人
  • ※信託監督人:受託者を監督する人

 
まず、委託者が個人の目的のために受託者に財産を預け、最初は受益者が利益を受け取ります。この時、委託者、受託者、受益者の3者の他に、信託を管理監督する信託監督人を設置することもできます。要は受託者がちゃんと仕事をしているか監督する人ですね。

民事信託は受益者のための制度でもありますが、受益者がちゃんとした意思表示をできないケースもありますし、一度受託者になった方の権限が強いということもあり、受託者を監督する人も必要になるケースもあります。 

 
一般的な信託との違い
一般的に言う「信託」とは、信託銀行等が行う「遺言書の作成 + 遺言書の保管 + 遺言執行」がセットになった「遺言信託」のこと、あるいは「投資信託」を思い浮かべる方が多いと思います。これが一般的な信託で、「銀行が関与するもの(商事信託・営業信託のこと)」と覚えておいて問題ないと思います。
一方「民事信託」は、「受託者が信託報酬を得るために行うもの」という基本的な仕組みは同じですが、商事信託とは反対に、受託者が信託報酬を得ない信託(=非営利信託)であり、受託者は個人でも法人でも誰でもなることが可能です。
 

財産の管理を「信じられる人に託す相手を自分の家族・親族にする」ことが多いので、家族や親族を受託者として財産管理を任せる仕組みを「家族信託」と呼んでいたりもします。
 

つまり、

  • ・一般的な信託 = 銀行が報酬をもらって行うもの
  • ・民事信託   = 家族が報酬を得ずに行うもの

 
このように覚えておくと良いと思います。信託は信託銀行が資産家を対象にした少々難しいイメージを持っているかもしれませんが、実は「信託」は一般の方に取っても大変身近なものと言っていいでしょう。
 

信託法の施行で生まれた新しい制度
信託法は大正11 年に出来たものでしたが、平成19年9月30日に新たな信託法が施行され、それまでは信託銀行などの信託業者しか信託を使うことができない、営利を目的にする「商事信託」が中心でしたが、改正によって営利を目的にしない民事信託や家族信託の仕組みを作ることができるようになったのです。 
 
信託にはリスクもある
通常、自分が所有している財産は自分で処分したり、他人に管理を委託して処分したりしますが、信託では「受託者」という第三者の手で財産管理や処分を行うことになります。委託者の所有権は、信託契約や遺言、公正証書などで受託者の信託財産とするのが一般的です。
 

信託財産の名義人となった受託者は、信託財産について唯一、管理や処分できる権限を持つ者となる訳です。しかし、管理や処分できる権利を行使する場合、受託者は受益者の為にのみ、その目的のために任務を遂行する必要があります。
 

ここが、銀行での長期間管理と家族などの知人に託す信託と大きく異なるポイントで、受託者との信認関係が前提となる以上、万が一の場合は財産を持ち逃げされる可能性もゼロではないリスクにはなります。 
 
民事信託の活用事例
では、「民事信託」は具体的にどのようなケースで行われるのか、その活用事例をご紹介していきます。
ケース1:認知症後も孫などに贈与を継続したい
相続税対策のために、これから10年かけて預金等を孫たちに贈与していきたいと考えているが、最近物忘れが激しく、自分の健康状態が心配である場合など、既に判断能力が低下している場合には、任意後見制度又は法定後見制度を利用するのが一般的ですが、これに代わる機能として、あるいは成年後見制度を補完するために、信託制度を活用することが考えられます。
ケース2:事業継承への対応「跡継ぎ問題」など
中小企業などの事業承継問題では、代表取締役兼株主である自分の亡き後、経営権の行方をどうするかは重要な問題になります。自分が亡くなった後、例えば妻に自社株を譲って経営を任せるけど、妻も亡くなった後は経営能力のある次男に会社を任せたいといった場合、遺言書では二次相続以降の相続までは指定できないため、民事信託のひとつである“後継ぎ遺贈型受益者連続信託”を利用することができます。
・後継ぎ遺贈型受益者連続信託とは?
後継ぎ遺贈型受益者連続信託(あとつぎいぞうがたじゅえきしゃれんぞくしんたく)とは、受益者の死亡によって、次に指定された者が新たな受益者(第二次受益者、第三次受益者・・・)として受益権を順番に取得する旨の定めた信託のことを言います。後継ぎ遺贈型受益者連続信託の最大の特徴は、信託が持つ「権利転換機能」を活かした相続や事業承継が利用できる点です。
本来、所有者Xさんが持っている遺産を相続人Yに相続させると、Yは受け取った遺産を自分固有の財産として自由に扱うことができます(Yが承継した財産を誰に相続させるかはYの自由)。しかし、後継ぎ遺贈型受益者連続信託を利用することで、Yの相続した財産は固有の財産ではなく「信託受益権」という権利を相続したことになり、Yが死んだ後は誰に相続されるかは、最初の遺産を持っていたXが自由に決めることが可能になります。
つまり、後継ぎ遺贈型受益者連続信託によって、二次相続以降の様々なニーズに柔軟に対応できる仕組みが生まれるということです。
 

ケース3:子供がいない夫婦の場合
被相続人Pさんは、自分が死んでしまった後は妻に不自由なく生活してもらいたいと考えて、遺産をすべて譲りたいと考えていますが、妻もいずれは死んでしまうので、その遺産を承継した後に死亡すると子供のいないPさんの家系で代々引き継いできた不動産は、妻の親族側であるQさんに渡ることになってしまう。Pさんとしては、もし妻が死んだら不動産はすべて、自分の親族である弟のRさんの家族に遺したいと希望しているケースです。
・解決策
この場合、まずPさんとXさんの間で信託契約を締結し、PさんはXに不動産等の財産を託して、Xが受益者に生活費の給付等を担う旨を定め、Pさんの生存中はPさん、Pさんの死亡後は妻が受益者となり、妻が死亡したら信託は終了し、残余財産の帰属先にXさんを指定します。
これにより、「自分亡きあとの妻の生活保障」および「先祖代々引き継いできた不動産の承継」の両方の問題に対応することが可能となります。 

  
2:民事信託でできる5つの機能
さて、活用事例がわかったところで、民事信託で出来ることをもう少し具体的にご紹介していこうと思います。
 

1:生前の財産管理が自由にできる
すでになんとなくおわかりかと思いますが、民事信託は被相続人が今まで築き上げてきた財産について、自分の死後にその利用方法を予め決めておくことができます。信託財産は「家族のために活かすのか」「投資的な行為を行うのか」その選択も自由に設定が可能になります。
 

財産の自由な分配方法などを決めるのは遺言書などがパッと思いつくかもしれませんが、遺言では自分の財産を誰に渡すかを決めることはできますが、財産を貰った相続人が、その財産を次に誰に渡すかまで決めることはできません。

また、成年後見制度でも、本人の家族の利益のために財産を処分することなどもできませんでしたので、従来の制度では実現できなかった、自分が生きている間に、自由な財産管理が可能になります。
 

2:財産の管理や処分を1人に集約させつつ利益は分配できる
民事信託の良いところは、財産の管理処分権を信頼できる一人(受託者)に集約できる点です。受託者はその利益を複数の人に分配することも可能になりますので、だれが財産を管理するのかで揉める可能性もだいぶ低く抑えられるでしょう。
 

例えば、不動産が共有状態だと共同相続人全員の同意がないと売却もできなくなりますが、民事信託を設定することで受託者1人の意見で売却が可能になります。その場合でも、収益や処分益は分配することもできますので、家族間での財産の公平な配分を実現することができます。
 

3:遺産相続の分割方法を詳細に決められる
「ケース2」などでも出てきましたが、会社などの事業継承において自分の持ち株を誰に渡して、経営権は誰に託すのかなど、家族間での対話を通じて、条件付きの財産承継などを行うことができます。
 

これは一般家庭でも同じで、遺産分割の期間や分割方法や割合を受託者が中心となって、生前から行うことができますので、相続人全員が納得のできる相続のありかたを作り出すこともかのうになります。
 

4:3代先の数次相続まで決定できる
遺言書などでは、自分が死んだ際の遺産相続しか指定はできません。例えば「ケース3」の例では、もし遺言でXに財産を承継させるには、

  1. ①:Pさんによる「妻に全財産を相続させる」遺言
  2. ②:妻による「Xに全財産を遺贈する」遺言


この2つが必要になります。しかし、妻は遺言を撤回することも可能ですし、必ずしもPさんの希望どおりXが確実に資産を承継できるという保証はないので、二世代、三世代先の相続まで考えるのであれば、民事信託は便利な制度と言えます。
 

5:現行の相続制度に対して多くの面で万能
現行の遺言や成年後見制度の問題点に対して、多くの面で優れているという点が、民事信託にはあります。
 

1:遺言書の問題

  • 一方的な意思の伝達
  • 本人が1人で書くとミスがあったち意思が伝わりづらい
  • 1つ先の代しか相続内容を決められない
  • 遺言書は書き換えができてしまう など

2:成年後見制度の問題

  • 財産はすべて家庭裁判所の監督下に置かれてしまう
  • 本人の財産をすべて開示しなければいけない
  • 財産を家庭裁判所の監督のもと後見人が管理することになる
  • 毎年の収支報告が驚くほど大変
  • 大きな財産を動かす際は家庭裁判裁所との打ち合わせや許可が必要 など

3:共有財産になった物の扱いが不便
不動産などが共有状態になると、共有者全員が所有権を持つことになるため、話がまとまらず、不動産は凍結状態になる可能性が高いです。
 

4:法定相続分では兄弟はすべて均等という一応の縛り
本来は寄与分や特別受益の制度がありますが、実際は使われていないのが現場です。本人に対する貢献度や迷惑度などはなかなか考慮されず、すべて均等に配分しなければならない点や、自宅を分けようと思っても分けられず、結果売却を余儀なくされるケースなど。
 

もちろん、法定相続分に従う必要は必ずしも無いのですが、誰もが自分が一番遺産を欲しいと思っている為、なまじ財産が500万円や1000万円を超えてくれば欲に目がくらむものです。
 

最初から自分で決められる自由があるのも考えものですので、ある程度主導的立場のある人間が管理したほうが、争いも少なくなります。こういった現行の制度では対処できない問題を、民事信託を活用することで解決出来ることは多くあります。 
 
3:民事信託を行うべき6つのメリットまとめ
民事信託や活用事例、機能などを確認してきたところで、民事信託を行うメリットをまとめてみました。
 

1:通常の遺言では対応できない細かい要望に応えられる
遺言書は自分が希望する相手に財産を渡せる非常に便利な制度ですが、以下のようなニーズには対応することができません。
 

  1. 1:遺産を年金形式で毎月定額で受けとれるようにしてほしい。
  2. 2:相続人や受遺者が一定の年齢になったら遺産を渡してほしい
  3. 3:相続人などが将来その遺産を使いきれずに死亡したら、次の財産の貰い手を指定したい
  4. 4:特定の目的のために遺産を活用してほしい など


遺言は誰に相続するかは決められますが、「遺産の使い道」「その次の相続の内容」を決められないため、「信託」という法律行為を利用することで、これらの要望にも応えることが可能になります。
2:成年後見では対応できない財産管理の要望に応えられる
たとえば、判断能力の低下した高齢者の方や障がい者の財産管理の手段として利用されるのは成年後見制度ですが、成年後見制度は、本人の財産を減らさないように財管理するのが目的のため、

  1. 1:判断能力低下後も積極的な資産運用をしたい。
  2. 2:判断能力低下後も相続税対策として生前贈与を継続していきたい など

こういった要望に応えるようにはできていませんので、「信託」という法律行為を利用することで、使い勝手のよい財産管理の手法として利用することが可能になります。
 

3:不動産の共有化に伴うリスクが回避できる
案外これが最も大きなメリットになる方も多いと思いますが、「共有不動産については、共有者全員の協力がスムーズに得られない可能性がある」というリスクを回避することができます。所有権ではなく「信託受益権」として共有し、不動産の管理処分権限だけを受託者に集約させることで、不動産の“塩漬け”を防ぐことが可能です。
 

4:委託者の意思が100%受け継がれる
委託者の意思能力が将来的に低下した場合でも正常な判断ができるうちに自分の財産を信託しておくことで、受託者による財産の管理運用が可能となります。
 

5:倒産隔離機能がある
主に企業側のメリットですが、信託財産は委託者から受託者に移転されるので、委託者が倒産しても影響を受けず、受託者が分別管理等の義務を果たしていれば、受託者からの独立性が法的に担保されており、受託者が倒産しても影響を受けません。
 

6:後継ぎ遺贈型受益者連続信託が使える
先ほど少し説明してしまいましたが、1代先までしか相続する人を決められない遺言書とは違い、2次受益者、3次受益者と、3代先にまで財産を取得する人を決めておくことができます。これは被相続人の細かい要望に応えられると共に、代々の資産を他の家系に渡ることがないようにできるため、会社のオーナーなどであれば経営権をうまく譲渡することができるメリットがあります。 
 
4: 民事信託を行うための3つの方法
民事信託を実際に行う方法は難しくなく、「信託契約」「遺言」「自己信託」の3つの方法で行うことができます。
 

信託契約
信託契約で行う場合は、
1:委託者と受託者が信託目的を決める
2:信託財産の管理処分方法と受益者を決めて契約締結をする
この手順で完了します。この際、受益者は必ずしも関与しなくても成立しますが、できれば受益者も含めて内容を決めていくことが良いでしょう。もし難しいようでしたら、弁護士などに相談することでスムーズに進むでしょう。
 

遺言によって決定する
信託の内容としては信託契約によるものと同じですが、民事信託が開始するのは委託者が死亡した時になります。ただし、実務上は信託契約を締結し、「遺言代用信託」が利用されるケースが多くなっています。詳しくは「弁護士にご相談ください」
 

自己信託
法律的には「信託宣言」と呼ばれる制度になりますが、委託者が受託者にもなる形態です。委託者と受託者が同一人物の場合、周りからそれが明確に判断できない為、自己信託は公正証書で行うケースが一般的になっています。

公正証書の扱いに関しては専門家にお尋ねいただくのが良いかと思います。 

 
5:民事信託を行う際の税金の問題
民事信託では、受益者や受益権の中身によって課税関係や課税金額が変わります。民事信託を設定すると、所有権名義が受託者に移転することになりますので、もしかすると受託者に対して贈与税が課税されると思われる方がいらっしゃいますが、受託者はあくまでも管理・処分する権限しか持っていないので、信託財産から生じる収益権は受益者にあります。
 

つまり、税務上は受益者を所有者に置き換えて課税されることになります。
 

課税対象になる方とならない方
課税対象者は受益者
税務上、委託者から受託者へ相続も(贈与)で財産権が移転したとみなされますので、信託設定したと同時に、相続税もしくは贈与税が課税されることになります。
 

受託者は非課税
もし委託者が受益者となる自己信託の場合、元々所有権を持っていた委託者が受益者になっていますので、税務上の変化はなく、課税対象にはなりません(自益信託)。 
 
民事信託における税金の考え方
日本の税務では「実体主義」「受益者負担」の原則があり、誰の名義であろうと、契約形態がどうなっていよう「実際に利益を受けている者」に対して課税される仕組みがあります。
 

つまり、前述のように委託者=受託者の場合は何の権利も取得してはいないので「パス・スルー」という考え方になる訳です。

  • 委託者の生前に受益者に権利が移る:贈与税
  • 委託者の死亡を条件として移れば:相続税
  • 受益権が売買された場合:所得税・法人税


上記の3つの税金が課せられ、その他の各種税金も信託の存在とは無関係に課税されます。これの例外は名義所有者である受託者が固定資産税の納税義務者になりますが、所有者はもともと委託者である受益者なわけですから、実質的にはパス・スルーになります。
民事信託は節税にはならないが流通税の節税にはなる
上記のように、結局何か財産を得たときには無関係に税金の対象になるので、一般的には「民事信託は節税にならない」とされていますが、流通税に関しては大幅な節税ができます。
流通税(りゅうつうぜい)とは
資産(財産)の権利移転(所得)に課税される租税のことで、「国税⇒内国税⇒流通税」となる。日本の税制度では、自動車重量税、登録免許税、不動産取得税、印紙税等が流通税に当たる。
たとえば、「会社や法人への所有権の移転」を阻害する要因として不動産取得税や登録免許税がありましたが、民事信託であればパス・スルーの概念から、委託者に対して譲渡所得税や受託者に対する不動産取得税の課税はありませんし、登録免許税も所有権移転の5分の1で済みます。
もし所有者が相続で得た数十億円の価値がある不動産を、管理会社に所有権移転しようとして、数億円もの税金がかかったという例もありますが、信託をすることで登録免許税のみの数百万円で済みます。


まとめ
 
民事信託の基本的な概念やメリットなどをご紹介してきました。多くのメリットや現行の遺言や後見成年制度にはない機能も多くありましたが、受益権によって財産の承継が行われた場合でも、遺留分を侵害することはできませんので、この点には注意する必要があります。
 

受益権を特定の人に合った形で信託契約をしてしまうと、他の相続人から遺留分減殺請求を受ける可能性もありますので、やはり事前に相続人同士でよく話あう場を設けるのは必須だといえますね。
 

成年後見制度

【きっかけベスト5】

  • 第1位 預貯金等の管理・解約
  • 第2位 施設入所等のための介護保険契約
  • 第3位 身上監護
  • 第4位 不動産の処分
  • 第5位 相続手続き


圧倒的に多いのが、本人の預貯金等の管理のためです。この他にも、保険金の受取や訴訟手続等のために成年後見制度を利用するケースが増えています。                       
 
 成年後見制度を利用するには一定の要件を満たす必要があります。また、成年後見制度は法定後見制度と任意後見制度の2つに分けられます。どういう時にどの制度を選択するのかについては医師等の鑑定も必要な場合もあるので判断が難しいのですが、ここでは簡単な事例を挙げてどの制度を選択できるのかを見ていきましょう
(なお、財産管理委任契約は成年後見制度ではありません。)  
              
年金生活の一人暮らしのおばあちゃんが訪問販売で必要もない高額な商品を買ってしまう
        ⇒任意後見制度もしくは法定後見制度

              
夫に先立たれてしまい一人で過ごす老後が不安・・・夫が残してくれたマンションの経営や、将来お世話になるかもしれない老人ホームの入所手続を代わりにやってもらいたい
        ⇒任意後見制度もしくは財産管理委任契約

              
兄が認知症の母と同居しているが、どうやら兄が勝手に母のお金を使っているらしい
        ⇒法定後見制度

              
うちの一人息子は生まれたときから重度の知的障害者で、私たち両親が亡くなった後のことが心配だ
        ⇒法定後見制度

              
高齢のため体が不自由で要介護認定を受けているが、特に認知症ではない。出歩くのも大変なため預金の管理等が困難なので代わりにお金の管理をしてくれる人が欲しい
        ⇒財産管理委任契約

              
最近、物忘れが激しくアルツハイマーの疑いがあり、一人暮らしのため老後がとても不安だ
        ⇒任意後見制度もしくは法定後見制度

              
寝たきりの祖母からお金の管理を頼まれたため、きちんと祖母のお金の管理をしているにもかかわらず、叔父や叔母からなにかと疑われてしまう
        ⇒法定後見制度

              
認知症の母の不動産を売却して老人ホームの入所費用にあてたい
        ⇒法定後見制度

                                        
判断能力が衰える前
      
判断能力が衰えた後
      
任意後見制度
      
法定後見制度
      
 将来のために自分を援助してくれる人や、援助してくれる内容をあらかじめ決めておくことができます
      
 法定後見制度は既に精神上の障害がある場合に利用できます。障害の程度によって後見、保佐、補助に分けられます
      
※成年後見制度を利用しても日用品の購入やその他日常生活に関する行為は、本人
     が単独で行うことができます
    ※居住用の不動産を売ったり貸したりするには、家庭裁判所の許可が必要です

成年後見制度は精神上の障害 (知的障害、精神障害、認知症など)により判断能力が十分でない方が不利益を被らないように 家庭裁判所に申立てをして、その方を援助してくれる人を付けてもらう制度です。

 また、成年後見制度は精神上の障害により判断能力が十分でない方の保護を図りつつ自己決定権の尊重、残存能力の活用、 ノーマライゼーション(障害のある人も家庭や地域で通常の生活をすることができるような社会を作るという理念)の理念をその趣旨としています。 よって、仮に成年後見人が選任されてもスーパーでお肉やお魚を買ったり、お店で洋服や靴を買ったりするような日常生活に必要は範囲の行為は本人が自由にすることができます。                      

 
 平成24年における成年後見関係事件の申立件数は合計で約3万5000件、同年末時点の成年後見制度の利用者は約16万6000人にのぼり、 ここ数年は毎年1万人以上のペースで増加しています。日本は超高齢化社会に突入しているので、今後も利用者数の増加が見込まれます。

 男女別割合は、男性が約4割、女性が約6割となっており、男女とも80歳以上の利用者が最も多く、 65歳以上の利用者は、男性では男性全体の6割以上、女性では女性全体の8割以上を占めています。

 成年後見登記制度は、法定後見制度と任意後見制度の利用の内容、成年後見人の権限や任意後見契約の内容などをコンピューターシステムにより法務局で登記して、登記官が登記事項証明書を発行して情報を適正に開示することによって、判断能力の衰えた方との取引の安全を確保するための制度です。

 以前は戸籍に記載されていましたが、プライバシーの保護や成年後見制度の使い勝手を考慮して成年後見登記制度が新たに作られました。本人や成年後見人から請求があれば法務局から登記事項証明書が発行され、これを相手方に示すことによって安全で円滑な取引ができることになります。

ここでは、家庭裁判所に成年後見の申し立てをした後の手続きの流れをみていきましょう。なお、申立てから審判までの期間は事案にもよりますが、2ヶ月以内で審判に至るのが全体の約8割で、制度開始当初と比べると審理期間は大幅に短縮しています。
 
家庭裁判所への申し立て
      
※申立書類
             
家庭裁判所の調査官による事実の調査
     
申立人、本人、成年後見人(保佐人、補助人)候補者が家庭裁判所に呼ばれて事情を聞かれます
              
精神鑑定 ※鑑定費用は5〜10万円
     
 
実際に精神鑑定がおこなわれるのは稀で、申立て全体の約1割に過ぎません
              
審 判
      
申立書に記載した成年後見人(保佐人、補助人)候補者がそのまま選任されることが多いですが、場合によっては家庭裁判所の判断によって弁護士や司法書士等が選任されることもあります
              
審判の告知と通知
      
裁判所から審判書謄本をもらいます
              
法定後見開始 ※東京法務局にその旨が登記されます

成年後見制度は法定後見制度と任意後見制度からなり、法定後見制度はさらに後見、保佐、補助の3つに分けることができます。任意後見制度は本人の判断能力が衰える前から利用できますが、法定後見は判断能力が衰えた後でないと利用できません。
                              
成年後見制度
      
法定後見
      
任意後見
      
後見 / 保佐 / 補助
    ※判断能力が衰えた後
      

    ※判断能力が衰える前 
 
 法定後見制度は、後見、保佐、補助の3つに分かれ、本人の精神上の障害の程度によって区別されます。なお、申立全体の約8割が後見で、保佐、補助は圧倒的に少ないです。

後見】 ほとんど判断出来ない人を対象としています。
 精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力を欠く常況にある者を保護します。大体、常に自分で判断して法律行為をすることはできないという場合です。
 家庭裁判所は本人のために成年後見人を選任し、成年後見人は本人の財産に関するすべての法律行為を本人に代わって行うことができます。また、成年後見人または本人は、本人が自ら行った法律行為に関しては日常行為に関するものを除いて取り消すことができます。

保佐】 判断能力が著しく不十分な人を対象としています。
 精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力が特に不十分な者を保護します。簡単なことであれば自分で判断できるが、法律で定められた一定の重要な事項については援助してもらわないとできないという場合です。
 家庭裁判所は本人のために保佐人を選任し、さらに、保佐人に対して当事者が申し立てた特定の法律行為について代理権を与えることができます。また、保佐人または本人は本人が自ら行った重要な法律行為に関しては取り消すことができます。

補助】 判断能力が不十分な人を対象としています。
 精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力が不十分な者を保護します。大体のことは自分で判断できるが、難しい事項については援助をしてもらわないとできないという場合です。
 家庭裁判所は本人のために補助人を選任し、補助人には当事者が申し立てた特定の法律行為について代理権または同意権(取消権)を与えることができます。