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借地人のメリット

では、土地を借りて建物を建てて住んでいる借地人から見たメリットとデメリットには、どのようなものがあるでしょうか。
この点、土地を買うより安くつくかどうかは、その地域の土地の価格や地代の相場にもよってきます。
土地の賃貸借契約をする場合、はじめに権利金という大きな額を支払って、その上で地代を支払うこともあります。
長く地代を支払っていけば、土地を普通に買うよりコストがかかるケースもあり得るのです。
もっとも親や祖父の代から借りているという場合、地代はある程度の年数分をまとめて支払っておくことも多いので、子供世代はほとんど負担なく利用できるメリットがあります。
また借りた土地とはいえ、借地借家法に守られているため、追い出される心配がありません。
普通借地権の存続期間は最低30年以上と長く、実際にはもっと長い期間で設定されている場合が多いです。
しかも、地主が更新拒否するには正当事由や多額の立ち退き料の支払いが求められるので、半永久的に利用可能です。
居住用建物のための定期借地権を新たに設定する場合も、存続期間は50年以上で定めなければならないので、少なくとも自分が暮らしていく間に追いだされるような契約はしなくて済みます。
さらに借地権は相続ができるので、借地権の設定者が亡くなった後も、家族は安心して暮らすことができます。また、まるで自分の土地のように暮らしながらも、
毎年の固定資産税や都市計画税は、あくまでも土地所有者が負担するため支払う必要はありません。

借地人のデメリット

これに対してデメリットですが、地代の値上げを巡るトラブルや、建物の建て替えや増改築、建物を売り払って引越したいなどと考えるときに、地主との間で制限が生じます。
地代については双方に地代の増減請求権がありますが、当事者で話し合いがつかないと裁判に発展する場合もあります。
また、賃貸借契約の中に建物の種類や構造が定められていたり、増改築などの制限が盛り込まれている場合、老朽化した建物を建て直す際に、地主の許可が必要なのです。
これも許可が得られなければ裁判になる可能性があります。
そして一番厄介なのが、建物の売却、借地権の譲渡のケースです。
土地は他人の土地ですが、建物は借地人の自己所有となっています。
本来、自分の建物を誰にいつ売却しようが自由なはずです。
しかし借地の場合、建物だけ売って、借地権は譲らない、つまり建物は使ってもいいけど
土地は使えないよというわけには行きません。
そこで建物を譲渡すると、借地権も一緒に移転することになります。
この点、借地借家法では借地権の譲渡や転貸には地主の承諾が必要と定められています。
借地契約は地代を滞りなく支払ってくれるか等、お互いの信頼関係に基づいて設定されているので、見ず知らずの他人に勝手に移転されては困るからです。
この地主の承諾が得られないと、やはり許可を求める裁判を起こす必要があります。
また、借地上の建物は高く売れない可能性があります。
この点、借地権は強い権利であり相続税評価上、高く評価されると言いましたが、それはあくまで相続税負担上の話であり、実際の売買とは異なるのです。
借地はあくまで借地であり自己所有ではないわけですから、排他的な権利である所有権と違い制約を伴う分価格は低くなってしまい、思ったような価格で売れない場合があります。

借地にお住まいの皆様へ

借地権をもち、借地にお住まいの皆様へ

「 いつかなんとかなるから・・・ 」とやり過ごすのではなく、積極的に関与して
アクションを起こすことがとても大切です。
ただしポイントは

①  借地権を甘く考えないこと。 
②  できるだけ早く「 借地権 」をどうするのか決断すること。
③  相談する相手を見誤らないこと。

借地権を甘く考えないこと

「 借地権 」は、「 所有権 」とは全く異なります。
借地権の譲渡や有効活用を検討する際、借地人の皆さまは、所有権の譲渡とは全く違うことを認識することが大切です。
「 所有権 」は自分の意思で自由に動かすができますが、「 借地権 」は何をするにも、まずは地主さんの承諾が絶対条件となります。
「 借地権 」は、「 所有権 」とは根本的に違います。
法律で定められている 「 借地権 」とは、『 建物の所有を目的とする地上権及び土地の借地権 』のことです。 (借地借家法 第1章第2条-1)
ですが、「 借地権を譲渡するときは、地主承諾が必要 」とあるだけで、具体的条件に関する規定は特にありません。
あと、一番根本的な大きな違いは「 所有権 」は資産となりますが
「 借地権 」 は、資産でなく「 債権 」だということです。

「あいまいな権利」

「 あいまいな部分 」がある権利だからこそ、借地権が市場に流動化しない最大の原因である、と考えています。
「借地権」は、譲渡承諾料が必要で、それは借地権価格の10%前後である、という部分だけがクローズアップされがちですが、実際には、承諾料の問題以外にも、建て替え承諾、契約期間の更新、新地代、建築計画、金融機関による融資承諾といった様々な問題があります。これらの全てを確定させて初めて、「借地権」は商品となります。
ところが、借地権にさほど明るくない業者では、所有権の売買と同じように簡単に考えて取り扱うため、結果的にトラブルになるケースが多くなってしまっているようです。
  

できるだけ早く「 借地権 」をどうするのかを決断すること

何かあってからでは、後手にまわって正しい判断や良い準備が出来ません。
考えた時がそのタイミングなのです。
何れ必ず訪れる未来(将来)なのだから・・・・・・・
何故なら、借地権は先にご説明した通り、とても「 あいまいな部分の多い権利 」で  あり、「 様々な制約条件 」があります。
とりわけ相続の問題が絡むと、ご家族それぞれのご意向やお立場に差異があるため、ともすると大きなトラブルになりかねません。
借地権を売却(譲渡)したいのか、借地権を有効活用したいのか、それとも、借地に住み続けたいのか、まずはできるだけ早い時期に、ご家族と団らんの場を設けて話し合ってみることをお勧めします。

素晴らしい未来のために・・・・まずはご相談から。
GRAN株式会社は必ず貴方様のお役に立つことと思います。

借地権の種類

一般的に、借地権は「借りる目的、及び有償か無償」により発生する権利が異なります。

土地を借りる目的:建物を建てるために借りる

賃借権(地代:有償)「借地権」
地上権(地代:有償、または無償)有償のものを「借地権」という。
使用借権(地代:無償) 借地法1条により「借地権」ではない。

土地を借りる目的:その他の目的のために借りる

使用借権(地代:無償)
永小作権(地代:有償)
地上権(地代:有償、または無償)

特に『土地を借りる目的』が建物所有である場合の賃借権については、平成4 8 1 日に制定された「借地借家法(新法)」が適用されますが、新法は【施行後に締結された契約だけ】に適用され、新法以前の契約には旧借地法が適用されます。
 

借地借家法(新法)

以前の旧借地法は借地権者に権利の重きを置いたことも多く、貸した土地が戻らないといった問題もあり、その解決のために改正された背景もあるようです。
新法の大きな特徴は「定期借地権(一般定期借地権・建物譲渡特約付借地権・事業用借地権)」が制定されたことで、存続期間も明確に設定されました。借地借家法に関しては貸し手側の権利に重きを置いているようです。
ただし、現在でも旧借地法が多く存在し、おおむねそのまま適用されていることも多く、トラブルになりやすいので注意が必要です。
注意点

契約更新しても旧借地権から借地借家法には切り替わりません。
借地借家法適用のためには、契約をし直す必要があります。

借地借家法(旧法)
旧借地権の期間

期間の定めがある場合、堅固な建物は30年、木造等の非堅固の建物は20年より短い期間を定めた場合、期間の定めがないものとみなされます。
期間の定めのない場合は堅固な建物は60年、その他の建物は30年と設定されています。
 

借地借家法(新法)の期間

期間の定めのない場合は堅固な建物は60年、その他の建物は30年と設定されています。

普通借地権
原則として30年ですが、当事者間でこれよりも長い期間を設定した場合はその期間となります。
一般定期借地権
50年以上
事業用借地権
10年以上20年以

旧借地法だと借地権の存続期間が経過している、もしくは地代滞納があるにもかかわらず、強制的に借地を取り返せないというトラブルなどが起こるため、また、そのことによって土地の高度利用が損なわれてしまうといった理由により、「借地権の存続期間をしっかり設定する」という意図で制定された背景もあるようです。 
 

更新について

旧借地法」と新しく制定された「借地借家法(新法)」で若干異なります。
旧借地法では、借地権の存続期間が満了したとき、1)借地人が更新を請求し貸し主から異議がない、2)同じ場合で貸し主に更新拒絶の正当事由がない、あるいは、3)借地人から更新請求がないときにも借地人が使用継続していて、貸し主から異議がない、4)同じ場合で貸し主からの異議に正当事由がないときには、借地権は同じ条件で更新されます。
借地借家法(新法)では、貸し主が更新拒絶できる場合が詳しく規定されて、その意味で更新が強制されることになっています。
地権の更新料の支払い義務については法的には根拠が明確となっていませんが、気をつけなければならない点としては下記のような場合があります。

更新料の支払い義務

契約書に明記されている場合
明記されていなくても両者に支払の合意がある
過去に支払がされた実績がある

このような場合に、更新料の不払いを理由に賃借契約を解除された判例もあります。
 

更新料の相場

更新料の高い低いでしばしば地主さんと借地人の間でもめるケースが多く見受けられます。
慣習上、更新料の相場は「借地権価格の5%前後」や「更地価格の35%前後」が目安となっている事が多いようですが、首都圏では高めになる傾向があるようです。
 

地代不払い

地代の対価は賃借権の重要な要素ですので、この不払いがあれば、債務不履行として契約を解除できます。

無断譲渡転貸

借主が地主の承諾を得ずに借地権を譲渡・転貸して、第三者に賃借物を使用収益させたときは、借地権を解除することができます。
判断の基準が難しいので、きちんと地主の承諾をとっておくことが大切です
 

特約違反《増改築禁止特約》

通常の建物所有を目的とする賃貸借契約には、特約として、増改築をするには地主の承諾が必要という特約が付されることが多いです。これに違反したときには、債務不履行で地主は契約を解除できます。
 

信頼関係破壊の理論

ただし、これらの債務不履行があっても直ちに解除権が発生するのではなく、無制限に認められるわけでもありません。(現在の裁判例では、仮に借地権を無断で譲渡したとしても「賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない」事情があると裁判所で判断されれば、解除は無効である、とされています。
 

地代とは

地代とは、土地を借りていることの対価として毎月支払う代金(賃料)のことを言い、これは借主と貸主の合意で決められたものです。
地代・賃料の額を変更する場合、原則として、借主と貸主の間で新たな合意が必要です。しかし、借主・貸主が合意しない場合でも、一定の場合、地代・賃料の増額・あるいは減額を請求できる場合があり、借地借家法で定められています。
 
 

地代のトラブル

地主から「地代を倍額に値上げする」と言われたが、この値上げは妥当なものか?
土地を貸しているが、数年前から賃料を支払ってくれない。どうしたらいいか?
地代増額の交渉をしたいがトラブルになりそうな場合、どうすればいいか。

地代にまつわるトラブルで多いのは、やはり金銭の授受に伴うものです。
お金は地主にとって大切な収入源であると同時に、借地人にとっては大きな負担となるものです。その上、過去の事情や人間関係も反映されるため感情的になりやすく、トラブルになることが多いと言われています。
 

地代の値上げについて

貸主は借主に対して地代の値上げを求める通知を出します。貸主と借主とで話し合いが成立しない場合、借主は、自分が相当と認める地代(多くの場合は、これまでどおりの地代)を支払っていれば、とりあえずは大丈夫です。貸主は、地代の値上げを求める調停を起こし、それでも話がまとまらない場合は、地代の値上げを求める訴訟を起こします。判決が確定し、ある程度の地代の値上げが認められたときは、その差額について、貸主が値上げを請求したときにさかのぼって、借主は年1割の利息をつけて支払いをしなければなりません。
 

地代の値下げについて

借主は貸主に対して地代の値下げを求める通知を出します。借主と貸主とで話し合いが成立しない場合、貸主は、相当と認める地代(多くの場合は、これまでどおりの地代)を請求することができます。借主は、地代の値下げを求める調停を起こし、それでも話がまとまらない場合は、地代の値下げを求める訴訟を起こします。判決が確定し、ある程度の地代の値下げが認められたときは、その差額について、借主が値下げを請求したときにさかのぼって、貸主は年1割の利息をつけて借主に返還しなければなりません
 

借地権の譲渡

借地権は建物所有を目的とする地上権と、賃借権の2つがありますが、わが国の借地権のほとんどが賃借権となっています。この賃借権に基づく借地権は自由に譲渡することができず、譲渡するには地主の承諾が必要です。
地主としては、『この人だから土地を貸している』という借地権者(借地権を有する者)への信頼があるわけですから、地主の知らない間に借地権が譲渡され、信頼関係のない人が借主になると、地代を支払わなかったり、建物を無断で増改築したりと、地主に不利益になるような事態が発生し、紛争が生じる危険があるのです。
地主の承諾を得ないで無断で譲渡した場合には、契約違反ということになり、土地の賃貸借契約を解除されてしまうこともあります。

地主が承諾してくれないときには

代諾許可の申立(借地非訟事件)
地方裁判所に訴訟を提起しますが、通常の裁判とは違った方法で審理がなされます(不動産鑑定費用が無償など)。
 

借地権の相続

借地権も財産なので、当然、相続の対象になります。
まれに借地権の相続を聞きつけた地主から、賃貸借契約書の名義書換や名義書換料の請求をされることがあるようですが、賃貸借契約書をわざわざ作りなおしたり、名義書換料まで支払ったりする義務は全くありません。また、「借地権者がなくなったのだから、土地を返してほしい」という地主の要求に応じる必要もありません。
この点で「借地上の建物を第三者に譲渡する場合には、必ず地主の承諾が必要になる」のとは異なります。
尚、相続した借地権が定期借地権の場合も当然に相続することができますが、存続期間が定められていて、存続期間満了すると借地権は消滅しますので、借地上に建物があれば、解体して土地を地主に返さなければなりません。
※定期借地権・・・
存続期間を50年以上とする借地権で、契約の更新や延長がなく、建物買取請求なども認められていません。

借地権の問題点

コストが高いという問題

第一に、コスト高を覚悟する必要があります。土地を借りている以上、当然のことながら、地代を永遠に払い続けなくてはなりません。
また、地価の上昇等の様々な理由により、地代の値上げも起こると予想されます。
地主の世代交代等が起これば、ビジネスとして、更新料、各承諾料等も、しっかり請求されるでしょう。それ相当の覚悟が、必要です。
 
 例

借地面積

231m²(70坪)

土地の時価

150万/坪

地代

900円/坪  固定資産税の三倍とする

更新料

時価の5%~10%

建て替え承諾料

時価の5%~10%

 
20年間でかかる費用

更新料

70坪 X150万 X 5%=525万

建て替え承諾料

70坪 X150万 X 5%=525万

地代

900円 X 70坪 X 12ヶ月 X 20年=1512万

合計 2562万

結局は借り物だという問題

いくら「借地借家法」により非常に強く権利が保護されているといっても、結局は借り物だと言えるでしょう。
転貸や、譲渡の場合、自分の土地では無いので貸主に承諾をお願いしなければなりませんし、建物の建て替えも、通常、承諾が必要です。
この時、金融機関からの融資を受けて建て替えを行なうケースがほとんどだと思いますが、金融機関から貸主に対して担保保全の為、金融機関に対して借地権の担保及び建替する皆の承諾書を書いて頂くよう言われます。
これを貸主に拒否されたら、通常、融資は受けられません。
各承諾について拒否された場合、司法が代わって承諾してくれますが、司法の承諾では、通常、金融機関の融資は受けられません。
時間と労力、余計な出費がかかります。以上のことから、借地権者は貸主と良好な人間関係を維持していくことが非常に重要になりますが、精神的に苦痛を感じる方も少なくないようです。

不安定であるという問題

「借地借家法」により借地権者の権利は強く守られていますが、結局は不安定だと言えるでしょう。
ある日突然、貸主が相続や売買によって変わるという可能性もあります。
現在、貸主と人間関係が良好だから安心だと思われているとしても、将来の保証はありません。
地代の滞納も限度を超えると最悪の場合、「借地権」が消滅するケースもございます。

換金性に乏しいという問題

「借地権」は換金性に乏しく、税務上の価値基準と実勢価値とでは、かけ離れているのが現状です。
例え、借地権割合が6割あってもその権利分を換金できるかは、全く別の問題であり、実務上、権利分資金化できることは極めて稀だというのが現状です。
 

借地上の建物の登記名義には注意しましょう

 借地法や借地借家法が適用されるのは、建物の所有を目的とした借地権です。借地権は、土地の賃貸人と賃借人との契約によって発生します。
 契約後に土地の所有者が変わることがあります。ただし、相続で地主が替わる場合には、亡くなった地主の契約関係も相続され、そのままの状態で契約が続くので、借地権者にとって問題はありません。問題は、第三者が土地を買い取った場合です(公売や競売で買い取った場合も含みます)。

「自分が新しく土地の所有者になった。だから、土地から出て行け」という通知が来たと、相談に来られる借地権者の方がいます。しかし、土地の所有者が変わったからと言って借地権が否定されたのでは、土地の上に建物を建てて生活の基盤にしている借地権者の権利が不安定になります。
 法律では、借地の上の建物が「借地権者の名義」で登記してあれば、新しい土地の所有者に借地権を対抗できることになっています(ただし、建物の登記は、新しい土地の所有者が、土地の名義変更の登記をする前にしなければなりません) 。この場合、新しい土地の所有者は借地権者を追い出すことはできません。新しい土地の所有者が土地の賃貸人(地主)になって契約が続くことになります。
 ただし、逆に言えば、建物の登記をしていない場合や建物の登記が借地権者の名義になっていない場合には、権利が否定されてしまいます。
 この場合でも、新しい土地の所有者が、借地権を認めてくれれば問題はありませんが、そうでなければ、建物を取り壊して土地を明け渡さなければなりません。
 建物名義が借地権者の名義と違っている例として、ありがちなのは、借地権者が亡くなったのに死後もその人の名義のままになっている場合です。
遺産分割でもめて登記名義の変更ができないこともあると思います。
ただし、亡くなった人が借地権者で建物の名義人だった場合には、亡くなった人の名義のままでも相続人は、新しい地主に借地権を対抗できるというのが判例です。
 しかし、原則として建物の名義人が借地権者でなかった場合には、対抗できないというのが判例です。
 借地権者が養母の名義で建物の登記をした場合、養母が亡くなって借地権者が養母の権利を相続したとしても、借地権を対抗できないという裁判例があります(最高裁昭和58.4.14)。
 また、子ども名義でもだめだというのが判例です(最高裁昭和50.11.28)。古い裁判例で批判もありますが、現時点ではこれが判例です。
建物を建て替える時に子どもの名義で建物の登記をしたりすると面倒なことになります。
建物を譲渡担保のために債権者名義にした場合も、
地主が変わると借地権の対抗ができなくなるという判例もあります(最高裁平成元.2.7)。
 建物の登記名義は、借地権者の名義にする。このことは十分に注意しなければなりません。

借地借家法の歴史

借地借家法の歴史

明治8年 地租改正

税金は従来米で納められるものでしたが、地租改正によって現金納付の方式に変わりました。高い税額設定によって、土地を所有することが困難になりました。そのため、土地を手放して借地を好む人が増え始めたのです。

明治27年~明治37年 日清・日露戦争

戦争需要によって、農村部から都心部への人口流入が進みました。それにともない土地の需要が増し、土地価格が上昇。権利の弱かった借地権者は立退きを迫られ、あちこち で無理な立退きが横行しました。

明治42年 建物保護法制定

建物の登記を行うことによって、新しい地主への対抗力が認められました。この法律が制定されるまでは、地主が変われば、借地権の主張ができなかったのです。つまり新しい地主から「出ていけ」と言われれば出ていかざるを得なかったのです。

大正10年 借地法・借家法制定

この時初めて借地・借家に関する法律が生まれました。ただ、まだまだ形式的な法律に過ぎず、賃借人保護を整備する法律ではありませんでした。

大正12年~大正13年 関東大震災 借地借家臨時処理法

関東大震災で居住の被害を受けた借家人がバラック生活を余儀なくされてしまいました。そこで政府は円滑な震災復興を目指すために、それら借家人が建てたバラック建物を借地権と認めることになりました。これが「借地借家臨時処理法」という法律であり、関東圏において借地の供給が大きく増える要因となりました。

昭和12年~昭和14年頃 住宅飢饉 地代家賃統制令

日中戦争の開戦による戦争需要で、さらに都心部への人口流入が進みました。そのため、土地価格は上昇し、貸家の空室率が低下しました。国民の生活が脅かされることを危惧した政府は、地代や家賃が高騰しないように統制にかかりました。これが地代家賃 統制令です。しかし、賃料が政府によって安定的にコントロールされてしまったために、土地価格上昇にともなう適正な家賃が収受できず、借家人に立退きを迫る家主が増え始めたのです。

昭和16年頃 借地法・借家法改正

立退きが社会問題になり、政府がこれを抑制する動きをとりました。簡単に明渡を認めないように、明渡(更新拒絶)においては、正当な理由を添えなければならないと法改正を施したのです。いわゆる「正当事由」です。この法改正によって賃借人に対する明渡(更新拒絶)が困難になるとともに、賃借人保護へ一気に傾倒することになりました。

昭和41年 借地非訟事件手続の導入

借地法・借家法は改正されましたが、借地にともなう制約は変わりません。売買・建替え・増改築(特約がある場合)には、地主の許可が必要です。そこで、それらの承諾にかかる紛争を迅速に解決に導くため、借地非訟事件手続が導入されました。

平成4年 借地借家法制定

賃借人過保護と言われるように、普通借地権においては、地主と借地権者との間に認識の齟齬が生じ、もはや問題とまで言われるようになってしまいました。そこで、地主に不利とならない「定期借地権」が創設されました。これは期間の定めによって借地契約が終了するもので、「返らずの土地」をなくすことで、借地の普及を目指すことが目的となっています。

借地人の悩み

借地人の悩みは、多種多様。

借地権をお持ちの方の高齢化が進む今日、いたるところでトラブルが顕在化しています。
その要因を紐解くと、借地人さんをとりまくさまざまな制約が複雑に絡み合って、円満解決の道も一筋縄にはいかないケースが多いようです。

  • 夫が他界し、いまは一人で借地住まい。将来がとても不安
  • 更新時期が迫っているが、まとまった現金もなく更新料をどうしよう
  • もしも要介護になったら、先々の地代負担が大きくなってしまう
  • 借地権にも相続税がかかると聞くと、子どもたちへの負担が心配
  • 母の急逝で借地権を相続。誰も住まないのに地代を払い続けるのも

地主さんの承諾

  • 「使わないなら、借地を返してほしい」、「このまま借地経営を続けたい」
    地主さんの意向が固く、借地権を有効活用したくても思うようにいかい

借地権を資産として活用するためには、地主さんの承諾が絶対条件です。
まずは、地主さんの意向を確かめることが最優先事項です。
地主さんは、借地権を買い戻して新たな資産活用を望まれる方、借地権を第三者に譲渡することを承諾し、新たな借地人さんを迎え入れ、借地経営を継続することを望まれる方など、借地人さんの意向とは異なる思いを持たれる方もいらっしゃいます。
借地権をトラブル化させないようにするには、借地人さんと地主さんとがお互いに話し合い了解し合うことがベストですが、実際には、コミュニケーション不足による感情のもつれから、トラブルに発展するケースが多々見受けられ、円満解決するために疲弊してしまう借地人さんも少なくありません。

借地権譲渡における地主承諾のポイント

借地権は非常にあいまいな部分が多い権利であり、様々な制約がありますが、特に、お手持ちの借地権を売却(譲渡)される場合は、地主さんとの間で具体的な条件を書面で取り交わすことが重要だと考えます。
これが慣習化され常識となれば、借地権の流動化は益々促進されると信じています。

建て替えにおける地主承諾のポイント

「建て替え」に関する地主承諾は、①借地人さんが建て替える場合と、②借地権を購入した「新借地人さん」が建て替える場合では全く異なってきます。
①のケースは、売却(譲渡)承諾と同様のフローで問題ありませんが、②のケースの建て替え承諾はいつもらうのがよいでしょうか?
本来、建て替え承諾は、建て替える人が地主さんからもらうべきものです。しかしながら、借地権譲渡の場合、建物がとても古く建て替えを必要とするケースが一般的なため、譲渡承諾時に、建て替えに関する承諾も同時にもらっておかなければ、後々トラブルを引き起こす原因になりかねません。
こうしたポイント以外の諸問題のひとつひとつに対するチェックリストをご用意して、万全の態勢で地主さん、借地人さんおよび新借地人さんの皆さまが安心できる環境を作ることで、借地権の流動化を促進していきます。
借地権の売却や有効活用を検討する場合、よく起こる問題として、建て替えに伴う資金調達の際に、金融機関から地主承諾を求められるケースがあります。

  • 譲渡を受けた新借地人さんが、地主承諾をもらえなかったらどうなるの?
  • 譲渡契約を交わした旧借地人さんが譲渡承諾料を支払った後、新借地人さんが地主承諾をもらえなかったどうなるの?
  • 譲渡契約を交わした後、新しい借地契約の内容(新地代、契約期間、更新条件建築計画など)で、話がまとまらなかったどうなるの?

こうした点を金融機関が指摘する主たる理由は、融資期間中に地主さんと借地人さんとの間で交わされた契約が反故となってしまう「契約解除リスク」を回避するための保全措置として、要求されることが多く、交渉力が求められがちです。
こうしたより専門的な対応の必要性を考えると、
借地権に精通したプロのアドバイスはとても大切です。
お気軽に GRAN株式会社 に御相談くださいませ。

”あらゆる不動産の権利関係の諸問題を解決する専門会社”

借地、底地及び立退き等の権利関係に問題が生じてお困りの方、
どんな事でもお気軽にお問い合わせください。ご相談は無料で承ります。

借地人の方 Q&A

複数の人と借地契約を結ぶときの注意点

地代の回収に注意して下さい。

【詳細解説】

地主Aがある土地を複数人に貸す場合には、一番の心配は地代の回収が注意すべき点になります。
 例えば、地主ABCに土地を貸し、地代をBに請求したら、"地代はCが払うことになっている。" また、Cに請求したら、"Bが地代は支払うことになっている"ということが起こる可能性があります。
 このような契約は、BCは地主Aに対して不可分債務を有しているとされています。
 不可分債務とは… 
民法432条:「…債権者は、…債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次にすべての…債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。」
 とあります。
つまり、Bに対して全額請求することもできますし、Cに対して全額請求することもできます。
もちろん、二重に(2倍)の賃料を受領することは不当利得になり、返還することになるので、注意が必要です。

底地・借地:借地権割合とは?

  借地権割合」は、更地価格に対する「借地権価格」の割合をいいます。

 【詳細解説】

借地権付土地の底地の価格は、借地権の価格よりかなり低いことが珍しくありません。
底地に比べて借地権は、大きな財産的価値を有します。
また、借地権も当然、相続の際には課税の対象となります。
 財産の評価をするために、標準的な借地権割合を公示するものとして、路線価図に記載されている借地権割合があります。
この路線価図や評価倍率表は、国税庁のホームページで閲覧することができます。
 個々の借地における借地権割合は、借地契約の内容によって異なりますが、一般に地価が高い地域ほど借地権割合は高くなり、東京の商業地では、借地権割合が80%~90%というところもあります。
 例:1,000万円の土地の場合、借地権が800万~900万円、底地価格が100万円程度ということになります。
 
 
※「借地権価格」とは、借地権の有する価値のことを意味し、住宅用か事務所・店舗用か、地代の額、継続年数、建物の経過年数・公租公課とのバランスなどの諸要素をふまえたうえ、評価されるものです。
更地価格にいわゆる「借地権割合」を乗じることで算定される金額は借地権価格のひとつの尺度と考えるべきです。

  基本的には単独で売却できます。

第三者への売却の場合…
①   借地権を買いたいという人がいること、
②   地主さんからの承諾が得られることが条件になります。
※借地権の売却には地主の承諾が絶対条件となるため、事前に地主の意向を確認することが最優先です。
※借地人が第三者に借地権を譲渡する場合には承諾料(名義書換料)が借地権価格の10%ほどかかります。
ただ、借地権は売買しにくい不動産です。
地主から譲渡承諾許可が得られても、個人で第三者へ売却することは容易ではありません。
利用・処分上様々な制約があり、購入資金を調達する時に銀行融資が受けにくいため、一般的に所有権の物件と比べて次の買主がつきにくいものです。
所有権に比べると、相場の半分以下になることがほとんどですので、価格に対してあまり期待をし過ぎない方がよいでしょう。
また、場所によっては売却が出来ない場合もあります。

登記していた借地権建物が無くなったとき借地権は消滅するのですか?

旧法適用(平成481日よりも前)の場合、新法適用(平成481日以降)の場合、で異なります。

【詳細解説】

まず、借地権は建物があって成立する権利のため、建物が無くなった場合には借地権もなくなってしまうと考えることも出来ます。
ただ、借地権者からすると、またそこに建物を建てて住みたい場合が多いでしょうし、新しくまた土地を探すとなると経済的にも負担が大きくなります。
   旧法適用(平成481日よりも前)の場合
 平成481日よりも前に締結された借地契約について、借地上の建物が滅失した場合であっても、当然に借地契約は終了しません。
借地人は借地契約の期間中は建物を所有して借地を使用する権利をもっているため、建物が滅失しても、再築して借地を使用することができます。
 滅失した場合借地権者としては当然、建物の再築を考えます。
 ただ、地主としてはより丈夫な建物を建てられると建物の存続可能期間が伸びてしまい不都合な場合もあります。
 この点を調整するため、地主は異議を述べることが出来ます。地主が遅滞なく異議を述べたときは、もとの期間がそのまま維持されることになります。異議がない場合、借地人が、借地契約の残存期間を超えて存続する建物を再築する場合、原則として借地契約の期間は、建物が滅失した日から、堅固な建物については30年、非堅固な建物については20年となる、という期間延長の制度が定められています。
② 新法適用(平成481日以降)の場合
(1)「最初の更新の前」の滅失・再築
 借地借家法71「借地権の存続期間が満了する前に建物の滅失があった場合において、借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を築造したときは、その建物を築造するにつき借地権設定者の承諾がある場合に限り、借地権は、承諾があった日又は建物が築造された日のいずれか早い日から二十年間存続する。…」
借地借家法72項前段「借地権者が借地権設定者に対し残存期間を超えて存続すべき建物を新たに築造する旨を通知した場合において、借地権設定者がその通知を受けた後二月以内に異議を述べなかったときは、その建物を築造するにつき前項の借地権設定者の承諾があったものとみなす。…」
とあります。
簡単に説明すると…
滅失後、借地権者以前より丈夫な建物を建てた場合は、地主の承諾があれば、20年は存続することが出来ます。
なお、当事者間でそれより長い期間を定めた時はその期間によります。(借地借家法71項但し書き)
例えば、30年と合意すればそちらが優先されるということです。
地主さん側は、借地人から再築が通知された後2ヶ月以内に地主が異議を述べなかった場合には、承諾があったものとみなされてしまいます。
そのため、地主が借地契約の期間延長を望まない場合には、必ず2ヶ月以内に異議を述べることが必要です。
(2)「更新後」の滅失・再築
 これに対し、更新後の再築については、
借地借家法72項但し書き:「…ただし、契約の更新の後(同項の規定により借地権の存続期間が延長された場合にあっては、借地権の当初の存続期間が満了すべき日の後。次条及び第十八条において同じ。)に通知があった場合においては、この限りでない。」
とあります。
 更新した「後」の場合は「この限りではない」すなわち、期間延長の制度は原則として認められていません。
仮に地主の承諾を得ないで借地契約の残存期間を超えて存続する建物を再築した場合、地主は借地契約を終了させる申入れをすることができます。
※この場合借地権者は、再築にやむを得ない事情がある場合には、裁判所に対し、地主の承諾に代わる許可を求めることができます(借地借家法181項)。
 地主さんが承諾してくれない場合は裁判所が代わりに許可を与えることで、借地権を正当に継続することが出来ます。

使用借権(使用貸借)と借地権の違いとは?

契約期間や、税金面などで違いがあります

【詳細解説】

まず、使用貸借に基づく場合は「無償」で、賃貸借に基づく場合は「有償」(地代を払う)の違いがあります。
「使用貸借」とは「使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。」(民法593条)とあります。
 つまり「無償」で土地利用を許可する契約になります。
使用貸借は親子間などで行われることが多いです。
例えば、設問のように子どもが親から土地を借りて、子ども名義で賃貸住宅を建てる場合です。
使用貸借に基づく場合、返還時期または使用収益目的の定めがない時は、貸主はいつでも返還(明渡)を請求がきます。
借主は貸主からの返還請求があれば、原則的として土地を明け渡さなければなりません。 
 「無償」で利用している人をそこまで保護する必要はないという考えが根底にはあります。
※また使用貸借による場合、課税関係が通常の賃貸借とは異なる点に注意です。
借地はいわゆる貸家建付地にはならず、「更地」としての評価を受けるので注意が必要です

借地権・地上権の違いとは?

賃貸借に基づいて契約する方が無難です。

【詳細解説】

地上権は物権、借地権は債権
まず、物権はその物を直接的に支配することができる権利です。
例えば、所有権(物権の一種)は誰に対しても自己の所有権を主張することが
出来ますよね。
そのため、土地所有者(地主)が誰であっても利用することができます。
そうすると、土地所有者が変更しても関係なく、当然に土地を利用し続けることが可能であり、強力な権利になります。
 また、権利を譲渡する際には地主の許可は要りません。
次に、債権は、特定の人(賃貸人)に対して、土地利用を請求する権利を持っているだけです。
そのため、賃貸人(地主)が変更した場合には、新しい土地所有者に対して、賃借人は当然に借地権を主張することが出来ないのが原則です。
※現実的には地上権を設定している場合は少なく、多くは賃貸借に基づく場合に
なります。

借地権を返還する場合、更地にする必要があるのか?

借地権を返還する場合、原則として原状回復(更地)し貸主に返還する必要があります。

【詳細解説】 

借地権契約が終了した場合には、借地権者は土地を更地にし、返還する義務がありますが、借地権者には建物買取請求権(借地借家法131項)と言う権利もあります。
借地借家法131項:「借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。」とあります。
更地にして返還する前に建物買取請求を考えてみてはいかがでしょうか。
地主がそんなこと認めなそう・・・
と不安に思うかもしれませんが、建物買取請求権は形成権と言って、相手の同意も不要です。つまり、建物買取請求権を行使した段階で、売買契約が成立する権利になります。
そのため、地主が認めないということは認められませんので、ご安心ください。
 ただ、注意点として、判例では地代の不払い等の債務不履行で契約が解除された場合の建物買取請求権の効力は否定されています(最判昭和3529日民集141108頁。
 地代を払っていないような借地権者を保護する必要はないという考えがそこにはあります。
※また、借地人は、建物買取請求権を行使すれば、地主から建物売買代金の支払があるまで土地明渡を拒むことができます。 

法務局に供託することで、遅滞を免れることが出来ます。

【詳細解説】

相続人がいない場合、最終的には国庫に帰属します(民法959条)。
国庫に帰属するまでの間には…
他の法定相続人→特別縁故者(内縁関係等)(民法958条の3)→共有者→国庫と順をおって相続人を探します
 借地権者の相続人の調査をした結果、相続人がいない場合も考えられます。
 民法は、相続人がいない場合、相続財産は、法人となる旨を定めています(民法951条)。そして、相続財産の管理や処分は相続財産管理人が行うことになります。相続財産管理人は、利害関係人等の請求によって、裁判所が選任します(9521項)。
 地主が死亡して賃料の支払先が分からなくなった場合には「供託」制度を利用することで賃料延滞を避けることができます。
 すなわち、借地権者自らに過失がないにもかかわらず賃借料等の支払うべき相手が分からなくなった場合は,賃料につき「債権者不確知」を供託原因とする弁済供託をすることにより,賃料債務を消滅させることができます。

借地権は相続できるのかですか?

当然に相続でき、住み続けるのに地主の許可はいりません。※建物登記名義人は変更する必要はあります。

【詳細解説】

借り主が死亡した場合、法定相続人である妻や子がその権利を相続するので、借地契約はそのまま有効です。
そのため、相続するにあたっては、貸主(地主)の承諾を得る必要なく、貸主(地主)は、原則として法定相続人が賃借権を相続することを拒否できません。
 仮に、地主側から立ち退きを請求されても拒否することが可能です。
 ※同居しているしていないにかかわらず、権利の主張をすることが可能です。
 ※建物登記の名義人は変更が必要になります。
※ただ、遺産分割協議が整った場合は、今後の地主との関係も考えると内容証明郵便などで通知しておくと、トラブルの未然防止になります。
※相続した借地権が定期借地権の場合も当然に相続することができます。ただ、注意が必要で、存続期間満了すると借地権は消滅し、建物を解体して土地を地主に返さなければなりません。

借地権の対抗要件について

借地権の登記(民法605条)、地上権の登記(民法177条)、建物の登記のいずれかをBさんが備えていれば問題ありません。

【詳細解説】

 地上権の設定自体があまり行われてはいませんので、それ以外を中心に解説します。
借地権が賃借権に基づく場合は賃借権の登記をすることで、第三者にも主張できることが可能です。
ただ、賃借権の登記の場合、所有権者(地主)の協力も必要なため、協力してくれず、難しい場合が多いです。
地主の立場に立つと、わざわざ借地権者に強い権利を与えるのは…とためらうことが多いのが現実です。
 一方、借地権者としても自己の借地権を第三者に主張できないと安心して住んではいられませんよね…
そこで、借地借家法では、①その借地上に建物が存在していること②その建物が借地人の名義で登記されていること(借地借家法101項)、この要件を満たせば借地権を第三者に対抗することができます。
Bさんは借りた土地の上に原則Bさん名義の登記があれば、Cさんにも自己の借地権を対抗することができます。
 ※建物の登記は建物所有権者が単独で出来ます。
※この建物登記は所有権の「保存登記」、「表示の登記」のどちらでも対抗力が認められます(最判50213日民集29283頁)

借地権を相続放棄した場合は更地にする必要はありません。

【詳細解説】

相続放棄をすると「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」(民法939条)とあり、被相続人からの権利義務は一切承継しません。
義務も追わないということは、更地にする必要も一切ありません。
この場合、次に相続人となる方が原状回復義務(更地にする)を負うことになります。
参考:相続人がいない場合、最終的には国庫に帰属します(民法959条)。
国庫に帰属するまでの間には…
他の法定相続人→特別縁故者(内縁関係等)(民法958条の3)→共有者→国庫と順をおって相続人を探します。
実務上は、相続人がいない場合、相続財産管理人(民法952条)が地主に借地権を返還している例が多いようです。

借地権と土地の分筆

契約締結後に土地が分筆された場合は分筆により建物が存在しなくなった土地について借地権を主張できます。

【詳細解説】

1、契約締結後に土地が分筆された場合
参考判例:最高裁昭和30年9月23日
判旨:「分筆前の宅地の全部につき借地権、――しかもその宅地の上に、登記ある建物を所有することによって第三者に対抗し得べき借地権――を持っていた被上告人は、その後分筆された右宅地の一部――右建物の存在しない部分――の所有権を取得した上告人に対しても、右借地権を対抗し得るものとした原判決の判断は正当であって論旨は理由がない。」
としています。
建物の登記の記載だけ見ると、その建物の敷地は分筆後の土地であって、分筆前の土地の借地権は公示されていないとも考えられます。
 しかしながら、土地の分筆というのは基本的には地主側の都合になります。
それを理由に借地権を主張できる土地の範囲が一方的に狭められることは妥当ではないという価値判断に基づき、借地人による借地権の主張を認めました。
※ただし、「第三者に対抗し得べき借地権」であることが必要です。
借地借家法101項:「借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。」
とあります。
 
つまり、借地権の登記が無くても建物の登記があれば「第三者に対抗し得べき借地権」となります。
※建物の登記は必要になります。

地主は転借人に対して土地の明渡しを求めることができます。

【詳細解説】

1、まず、転借人と地主との関係は…
民法613条:「賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う。…」
とあります。
本来であれば転貸借契約は借地人(転貸人)と転借人の2当事者間のみのことではありますが、転借人も大元の地主(借地権設定者)に対して直接義務を負うことになるということです。
借地人(転貸人)と転借人との間の転貸借契約は、地主と借地人との間の有効な借地契約の存在を基礎とし、その上に成り立っている契約であることから、直接義務を負うこととされているのです。
 
 
2、借地人が地主に対して地代を支払わないことの影響
地主と借地人との間の借地契約の債務不履行にあたります。
【最判昭28年925日】
判旨:「賃貸借が当事者の個人的信頼を基礎とする継続的法律関係であることにかんがみ、…賃貸借関係を継続するに堪えない背信的所為があったか…(債務不履行があっても)背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては同条の解除権は発生しないと解するべきである」(信頼関係破壊の理論)
とあるように信頼関係が破綻される程度に賃料の不払い(1ヶ月や2ヶ月では足りません)があるとそして、地主は借地契約を解除することができます。
3、解除後の関係
解除が有効となった場合、地主の承諾を受けて借地人(転貸人)から土地を転借している転借人は、地主に対して土地を明け渡さなくてはならないのでしょうか。
 この点、前述のように借地人(転貸人)と転借人との間の転貸借契約は、地主と借地人との間の有効な借地契約の存在を基礎とし、その上に成り立っている契約です。
 したがって、地主は、借地人(転貸人)との間の借地契約を解除したうえで、転借人に対して土地の明渡しを求めることができます。
参考判例【最判平9年225日】
判旨:「…賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了すると解するのが相当である。」
 としています。
 (借地人)転貸人の債務不履行により「転」貸借契約も終了するということです。
4、合意解除の場合
 上記の解除は「債務不履行」による解除の場合でした。
 それでは、地主と借地人(転貸人)の契約が「合意」解除された場合も同じように考えて良いのでしょうか。
 この点につき、参考判例を見てみましょう
【最昭62年324日】
判旨:「賃貸人が賃借人(転貸人)と賃貸借を合意解除しても、これが賃借人の賃料不払等の債務不履行があるため賃貸人において法定解除権の行使ができるときにされたものである等の事情のない限り、賃貸人は、転借人に対して右合意解除の効果を対抗することができず、したがつて、転借人に対して賃貸土地の明渡を請求することはできないものと解するのが相当である。」
としています。
合意解除の場合には、債務不履行解除のような帰責性は存在しないことから、このような判断が下されていると考えられます。
 なお、その後の法律構成については、
転貸人(借地人)は合意解除により契約関係からは離脱することになり、転借人は借地人(転貸人)の地位を引き継ぎ、地主(借地権設定者)と転借人の賃貸借になると考えられています。
 

問題ありません。 

【詳細解説】

民法474条:「債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、…はこの限りでない。」
同上2項:「利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。」
とあります。
第三者弁済も当然有効なので、入居者による地代支払いも有効です。
そして、入居者は「利害関係を有する第三者」に当たります。
すなわち、借地人が地代の滞納を続け、契約が解除された場合、借地人は更地にして返還する義務があります。
当然、借地建物を借りて住んでいる人は出ていかなければなりません。
それを防ぐために、地代を払って借地権が消滅しないようにすることができます。
借地人が地代を払うな。という意思を示していても、借家人が払う地代は認められますので、地主は借地権者さんの支払と同一に扱わなければなりません。
※借家人はその後借地人に地主に対して支払った地代を求償することができます。
民法500条:「弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する。」
 

 抵当権の設定について地主の承諾は必要ありません。ただし、抵当権が実行され買受人が建物を競落するときには、地主の承諾が必要になります。

【詳細解説】

 借地上の建物は借地人が所有するもののためその使用・収益・処分は自由に行うことが出来ます。
建物に抵当権を設定することは所有者たる借地人の自由であり、抵当権の設定それ自体について地主の承諾は必要ありません。
 抵当権の効力の及ぶ範囲については民法370条に「抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産に付加して一体となっている物に及ぶ。…」とあります。
借地権を設定し建物を建てるという敷地利用権は「従たる権利」と呼ばれ、抵当権の効力は及びます(最判昭4054日民集194811頁)。
そうすると、抵当権が実行され買受人が建物を競落した場合、建物所有権のみならず敷地の賃借権も買受人に移転することになります。
建物を所有するために必要な敷地の賃借権は建物の所有権に付随し、これと一体となってひとつの財産的価値を形成しているためです。
借地権(賃借権)の譲渡については地主の承諾が必要になります。
 このように、抵当権の設定をするときには地主の承諾は不要であるものの、買受人が建物を競落するときには地主の承諾が必要ということになります。
 ※地主(借地権設定者)の承諾が得られない場合。
民法6121項には、「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。」とあります。
 抵当権が実行され、譲受人が地主の承諾が得られない場合には、裁判所に申し立てを行い「承諾に代わる裁判所の許可」(借地借家法20条)を得ることで、賃借権を取得することが可能になります。
 また、承諾を求めない、承諾を得られない場合、「建物買取請求権」(借地借家法14条)を行使することで、建物を買い取ってもらい、換価することを選択することになると考えられます 
 

建物買取請求権を行使することで、地主に時価で買い取ってもらうことが可能です。

【詳細解説】

借地権の存続期間が終了して契約更新のない場合、借地権者は借地権設定者に対して、建物その他借地権者が権原により土地に付属させた物を時価で買い取るべきことを請求することが出来ます(借地借家法131項)。
借地借家法131項:「借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる」
借地契約が終了した場合、本来ならば借地人は建物を取壊し、更地にして返却しなければなりません。
しかし、使用に耐えられる建物を壊すことは社会経済的利益の保護及び借地人が建物のために投下した資本の回収が出来なくなってしまいます。
 そこで借地人に「建物買取請求権」(借地借家法13条1項)を設けて借地に投下した資本の回収を可能にしました。
また間接的に地主に経済的負担をかけることによって更新拒絶をしにくいものにする効果ももっています。
 
 
 それでは、どんな場合に「建物買取請求権」を行使出来るのか。
 権利行使の要件は
  ① 借地期間が満了したこと
 ② 契約の更新がないこと
  ③ 借地上に建物があることである。
 即ち、建物が存在し、借地契約の更新が出来なかった場合に建物買取請求権を行使することができます。
 借地人が建物買取請求権を行使した場合、地主が買取を承諾しなくても、借地人の一方的な買取請求の意思が地主に通知されれば、それだけで強制的・自動的に建物の売買契約が成立します。
※このような単独の一方的な意思表示のみによって法律効果を生じさせることのできる権利を形成権と呼びます(※賃料の増減請求権も同様の形成権)。
 通知は口頭、手紙、FAX等でも有効ですが、後日通知の有無で争いになることも考えられるので、内容証明郵便で通知する方が得策です。

地主(借地権設定者)は建物買取を拒否できず、建物を時価で買取ることになります。
どんなに古い建物であっても、建物に借家人が居住していても、建物に抵当権が付いていても地主は建物を買取ることになり、地主の所有物となります。
これによって、借地人は建物を解体し、更地にして返還する必要がなくなり、建物の解体費用も勿論、借地人が負担する必要がなくなる。
※買取価格について
買取価格の基準時は「建物請求権を行使した時点」での建物の買取価格である。
 建物の時価は…
  「建物が現存するままの状態における価格であって敷地の借地権の価格は加算すべきではないが、この建物の存在する場所的環境は参酌すべきものである」(最判昭351220日)。
  「建物自体の価格のほか、建物およびその敷地、その所在位置、周辺土地の関する諸般の事情を総合考察することにより、建物が現存する状態における買取価格を定めなければならない」(最判裁昭47523日判決)。
 
つまり最高裁判決では、借地権価格自体を建物の時価に算入すること自体は否定していますが、場所的環境(場所的利益)として土地価格や借地権価格を考慮に入れて建物の買取価格を算定しているといえます。 
 
※地主と借地人が合意の上で解約した場合
 判例は「土地の賃貸借を合意解除した借地権者は買取請求権を有しない」(最判昭29611日)としている。合意解除により借地人(借地権者)が買取請求権を放棄したものと解されています。
※地代不払い等の債務不履行や契約違反で契約解除された場合
判例は一貫して建物買取請求権を否定している(最判昭3529日)。
これは債務不履行があった借地権者に建物買取請求権を認める必要性に欠けると判断したと考えられています。 

借地上に建物を所有している借地人(借地権者)が建物を譲渡するというので、地主(借地権設定者)から譲渡について承諾を得た。敷金は誰返してもらえるのか?

  Bさんは敷金を返してもらうことが可能です。

【詳細解説】

1、 敷金とは
 敷金とは、契約締結に際して、契約成立時から契約終了時の目的物明渡終了時まで賃借人(借地権者)の債務不履行による損害(賃料の不払い、目的物の損傷)を担保するために、あらかじめ賃借人(借地権者)から、賃貸人(地主、借地権設定者)に交付されるものです。
 契約が終了した際には、その損害額を差し引いて賃借人に返還されることになります。
 敷金のカバーする範囲は賃借人の「債務不履行による損害」(例えば、賃料の未払い、故意・過失による損傷等)を担保するものになります。
 したがって、通常の使用によって不可避的に発生する劣化については敷金はカバーしないと考えられます。
  
2、本件のように賃借人が変更になった場合はどうでしょうか。
判例(最判昭531222日民集3291768頁)では「特段の事情の無い限り、敷金に関する敷金交付者の権利義務関係は新賃借人には承継されない」としています。
つまり、賃借人が変更になる場合敷金は新賃借人には承継されないということです。
 ※特段の事情とは・・・
 例えば、旧賃借人が賃貸人に対して敷金を新賃借人の債務不履行を担保とすることを約束するか、または、旧賃借人が敷金返還請求権を新賃借人に譲渡する…
 と判例では言っています。 
上記で敷金とは何かについて簡単に説明しました。
それによると、敷金は「…契約成立時から契約終了時の目的物明渡終了時」までの債務不履行を担保する金銭になります。
そうすると、新賃借人に敷金の権利義務関係が引き継がれるとすると、旧賃借人は契約関係から離脱したにもかかわらず、新賃借人の債務不履行まで担保することになってしまい、敷金交付者に予期に反する不利益を被らせることも考えられます。 
本件のBさんの立場に立って考えてみましょう。
Bさんの敷金はBさん自身の債務不履行があった場合に備えて、借地権設定契約時に金銭をAさんに交付しています。
そして、BさんはCさんに建物を譲渡し、契約関係からは無関係になっています。
そんなBさんにCさんの債務不履行(例えば、地代の滞納)まで負担させるというのは妥当ではないですよね。
Cさんの債務不履行は、Cさん自身で負担すべきと言うのは、Bさんの立場に立てば当然と言えるでしょう。
 
3、尚、賃貸人が変更になった場合には敷金請求権は当然に新賃貸人に承継され(最判
44717日民集231610頁)、新賃貸人が敷金返還義務を負うことになります。
そもそも、賃貸人の義務内容は、賃貸人が変更になっても変化が無く、賃貸人が変更になっても賃借人にとって不利益を被ることは考えにくいことから、賃貸人の変更により、賃貸借契約の終了は当然にはおらないとされています。
 その結果、敷金も新賃貸人に当然に承継されるとされています。
 その際は敷金全額を持って承継されるとされています。
 ただ、契約終了後の移転の場合には、敷金に関する権利義務が新所有者に当然に承継されるものではありません(最判昭4822日)。
  
4、敷金の返還はいつ請求できるのか。
 敷金は契約終了しても明け渡してとの同時履行の関係(留置権の発生も)には立ちません。
<補足>
※同時履行の抗弁権(民法533条)
  →、双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができるとする権利(抗弁権)。
※留置権(民法295条)
  →他人の物の占有者が、その物に関して生じた債権の弁済を受けるまで、その物を留置することを内容とする担保物権。
 
 簡単に言うと、賃借人は「敷金が返ってくるまで明け渡さない、同時でないと明け渡しません」と賃貸人に主張することが出来ないということです。
 なぜなら…
 敷金は「明渡時」までの債務不履行を担保する金銭です。
 明け渡しの際に何らかの物損が発生する場合も考えられると思います。
 そのため、敷金は明け渡して、損害があるか否かの点検が終了した後に返還されることになるのが原則です。
 
※このような敷金の問題を未然に防止するためには…
上記判例(最判昭531222日民集3291768頁)を参考にするとあらかじめ、
  借地権を譲渡する際には敷金返還請求権もともに譲渡しなければならない。
② 新借地人が敷金を差し入れるまでは、旧借地人の敷金をもって新借地人の債務を担保する
等の特約を締結しておくことがトラブル防止になると考えられます。 
 

 地代増額の可能性があります

【詳細解説】

1、 原則
まず、契約内容は原則、当事者が自由に決めることができます(契約自由の原則)。
地主・借地人両者で従前の地代で同意が出来れば、建物を建て替えても、問題はありません。
 地代については、法律の関するところではないため、当事者間での合意がそのまま反映されることになります。
 次に、一般的にはどう考えるべきかを考察していきましょう。
地主の立場になって考えてみましょう。
非堅固建物である木造アパートから堅固建物である鉄筋コンクリートのビルに変更されると…
丈夫な建物に変更されるわけですから、建物の寿命は大幅に伸び、土地が返ってくる可能性が低くなり、また建物買取請求権を行使された場合には、金額も高騰することが考えられます。
 そうなると、基本的には地代を上げる一定の合理性が認められ、地代は上がるものと考えていいでしょう。
 
 
2、増改築禁止特約について
契約締結の際、借地契約(借地権設定契約)には、増改築を禁止する特約(増改築禁止特約)をする場合があります。
これは、建物の変更があると存続期間が延長してしまうことなどを防止するために当事者間で結ばれる特約になります。
一般に増改築禁止特約がある場合、建物の変更に制限を加えることになるので、通常より地代が安めになっていることが多いです。
 
増改築禁止特約がある場合には、地主側は、改築を承諾する代わりに、地代の値上げの申出をすることは可能です。
その際、話し合いがまとまらない場合には、借地人(借地権者)は裁判手続をとることが考えられます。
 借地借家法171「建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の借地条件がある場合において(増改築禁止特約)、法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化その他の事情の変更により現に借地権を設定するにおいてはその借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であるにもかかわらず、借地条件の変更につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、当事者の申立てにより、その借地条件を変更することができる。」
とあり、裁判所の許可があれば、変更可能になります。
その際、地主(借地権設定者)の承諾については…
借地借家法172「(増改築禁止特約がある場合)土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、その増改築についての借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。」とあります。
つまり、地主の代わりに裁判所が変わって、増改築の許可を与えることができ、それにより借地権者は正当な権限の元、増改築を行うことが出来ます。
ただ、無条件に許可するのでは、当事者間の公平を欠く場合も考えられます。
そこで、借地借家法173項「裁判所は…当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、他の借地条件を変更し、財産上の給付を命じ、その他相当の処分をすることができる。」
としました。
当事者間の公平を図るために、財産上の給付や、その他相当と認められる処分(増改築の内容の変更等)をすることにしています。
その判断の際には…借地借家法174項「裁判所は借地権の残存期間、土地の状況、借地に関する従前の経過その他一切の事情を考慮しなければならない。
とあります。
周辺の状況や、当事者間の今までの履行の状況(家賃滞納が無いか等)、様々な事情を斟酌してできるだけ当事者間の公平を図るようにしています。
 
3、地代についての補足
上記のように地代については原則として、当事者が自由に合意することができます。
土地の価格や周辺環境の変化によって、地代が契約締結時のままでは不相当(高すぎたり、逆に安すぎたりする場合)な場合もが出てくることもあり得ます。
借地権設定契約際、一定期間経過後は地代を増額するとの取り決めをしておくことも可能です。
 もちろん、当事者間での契約内容は原則自由ですので、そのような特約も認められます。
しかし、バブル崩壊に見られるように、当初は合理的・相当な特約であっても事情変更により不相当な場合も出てきます。
そのような場合は、特約自体が自動的に適用されることはないとされています。
考慮事由としては…
①    増額の基準を定めるにあたって基礎となっていた事情が失われたこと。
②  公租公課の減額や土地の価格の下落などの経済事情の変動、あるいは、周辺の同種の土地の地代の額と比較して極めて高い状況となる。
などがあると、借地権設定契約時の賃料(地代)増額特約は無効になると考えられます。

信託制度

1.信託とは
信託とは、(1)特定の者(受託者)が、(2)財産を有する者(委託者)から移転された財産(信託財産)につき、(3)信託契約、遺言または公正証書等による自己信託により(信託行為)、(4)一定の目的(信託目的)に従い、(5)財産の管理または処分およびその他の当該目的の達成のために必要な行為をすることです。(信託法2条1項)
 
2.信託の起源は?
  信託は,中世ヨーロッパにおいて十字軍の遠征に参加する兵士が,信頼のおける友人を受託者として土地を信託し、帰還するまでもしくは万一の戦死に備えて家族のために管理運用させて,その収益を兵士の家族に給付させ所有地が没収されず承継されるようにしたことが起源の1つとして取り上げられています。
 
3.信託の特徴は?
  通常、自分が所有権を有する財産は自分でまたは他人に委託して管理もしくは処分しますが、信託では「受託者」という第三者によって長期にわたり財産管理・処分を行うことになります。
  委託者の所有権は、契約・遺言・公正証書等によってする意思表示(「信託行為」といいます)で受託者に移転されて、受託者の信託財産となります。受託者は信託財産の名義人となり、信託財産について唯一、管理もしくは処分できる権限がある者となります。しかし、その管理もしくは処分できる権利を行使する場合は、信託の際に締結された契約の目的に拘束され、受託者は、受益者のためのみに任務を遂行しなければなりません。ここが、長期間の管理もしくはノウハウがいる処分について他人に託す通常の方法と異なる大きなポイントで、受託者との信認関係が前提となる仕組みです。

 
4.信託の機能とは?
(1)財産権の性状の転換
  委託者は、信託前は財産に対して所有権という物権的権利を持っていましたが、信託によって、そこから生じる利益を受け取るという債権的権利(「受益権」といいます)に変わります。つまり、財産権の性状が変わることになります。
(2)主体の転換
  委託者の所有権が受託者に移転して、それを受託者が管理もしくは処分することで受託者の信用・ノウハウを活用することができます。つまり、委託者や受益者の事情に左右されずに、当初結んだ信託契約の目的に沿った財産の管理もしくは処分が可能となります。また、利益を得る受益者を変更・承継により転換できます。
(3)倒産隔離
ア.委託者からの倒産隔離
  信託財産は受託者に移転されるので、原則、委託者の倒産の影響を受けません。(ただし、債務者である委託者が、その債権者を害することを知りながら、自己の債務を逃れるために信託を設定したような場合、受託者が善意であっても当該信託は債権者詐害信託となり、委託者の債権者、当該信託を訴えによって取り消すことができる、とされています。)
イ.受託者からの倒産隔離
  信託財産は、受託者が分別管理等の義務を果たしていれば、受託者からの独立性が法的に担保されており、受託者の倒産の影響を受けません。

 
5.民事信託とは?
  「信託業法」では、「信託の引き受けを営業」として行おうとする場合には、免許が必要と規定しています。「営業」とは、営利を目的として、不特定多数の者を相手に、反復継続して行われる行為をいいます。
  そこで、営利を目的とせず、特定の1人から1回だけ信託を受託しようとする場合には、信託業の免許は不要だと考えられますが、このような信託を「民事信託」と呼びます。また、今日では、財産の管理、財産の承継を目的とする信託、管理できない人に代わって管理して生活に必要な給付を確実にする信託、自己の判断能力の低下、死亡に備えて財産の管理・承継をする信託、高齢者・障害者等の財産管理・身上監護に配慮した生活支援のための信託などの信託を民事信託と呼んでいます。
  「民事信託」を使って委託者と受託者との間の信託契約をオーダーメイドで設計することにより、個人や中小企業等でも容易に活用ができることになります。

民事信託とは、受託者が限定された特定の者を相手として、営利を目的とせず、継続反復しないで引き受ける信託のことで、信託銀行の取り扱う信託商品や投資信託(商事信託)とは違い、財産の管理や移転・処分を目的に家族間で行うものとされています。
 

委託者と受託者の間で独自の信託契約を締結することで、様々なコストを抑えることができ、主に①自己信託、②限定責任信託、③知的財産権の信託、④金銭信託などがあります。
 

民事信託の中でも、『家族による家族のための民事信託』とされているものがあり、家族が財産の預り手(財産管理をする者)となり、「高齢者や障がい者のための安心円滑な財産管理」や「柔軟かつ円滑な資産承継対策」を実現しようとする民事信託の形態を『家族信託』と呼んでいたりもします。
 

あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、民事信託には遺言書や成年後見制度ではできない相続対策も多くあり、相続分野の専門家のあいだでは注目されつつある相続方法ではあるので、今回は、そんな民事信託についてご紹介していこうと思います。 
 
1:民事信託の基本的な概要
まずは民事信託の基本的な概念についてご説明していこうと思います。民事信託(みんじしんたく)は、信託銀行の取り扱う信託商品や投資信託(商事信託)とは違うということはお話ししましたが、具体的にどういった仕組みなのかを見ていきましょう。
 

民事信託の仕組み
民事信託には3人の登場人物が出てきて、財産を持っている受遺者(被相続人)、財産を管理する受託者(相続人など)、利益を得る受益者(他の相続人など)の3人から成り立ちます。
 

  • 委託者:財産を持っている人
  • 受託者:財産を管理する人
  • 受益者:利益を享受する人
  • ※信託監督人:受託者を監督する人

 
まず、委託者が個人の目的のために受託者に財産を預け、最初は受益者が利益を受け取ります。この時、委託者、受託者、受益者の3者の他に、信託を管理監督する信託監督人を設置することもできます。要は受託者がちゃんと仕事をしているか監督する人ですね。

民事信託は受益者のための制度でもありますが、受益者がちゃんとした意思表示をできないケースもありますし、一度受託者になった方の権限が強いということもあり、受託者を監督する人も必要になるケースもあります。 

 
一般的な信託との違い
一般的に言う「信託」とは、信託銀行等が行う「遺言書の作成 + 遺言書の保管 + 遺言執行」がセットになった「遺言信託」のこと、あるいは「投資信託」を思い浮かべる方が多いと思います。これが一般的な信託で、「銀行が関与するもの(商事信託・営業信託のこと)」と覚えておいて問題ないと思います。
一方「民事信託」は、「受託者が信託報酬を得るために行うもの」という基本的な仕組みは同じですが、商事信託とは反対に、受託者が信託報酬を得ない信託(=非営利信託)であり、受託者は個人でも法人でも誰でもなることが可能です。
 

財産の管理を「信じられる人に託す相手を自分の家族・親族にする」ことが多いので、家族や親族を受託者として財産管理を任せる仕組みを「家族信託」と呼んでいたりもします。
 

つまり、

  • ・一般的な信託 = 銀行が報酬をもらって行うもの
  • ・民事信託   = 家族が報酬を得ずに行うもの

 
このように覚えておくと良いと思います。信託は信託銀行が資産家を対象にした少々難しいイメージを持っているかもしれませんが、実は「信託」は一般の方に取っても大変身近なものと言っていいでしょう。
 

信託法の施行で生まれた新しい制度
信託法は大正11 年に出来たものでしたが、平成19年9月30日に新たな信託法が施行され、それまでは信託銀行などの信託業者しか信託を使うことができない、営利を目的にする「商事信託」が中心でしたが、改正によって営利を目的にしない民事信託や家族信託の仕組みを作ることができるようになったのです。 
 
信託にはリスクもある
通常、自分が所有している財産は自分で処分したり、他人に管理を委託して処分したりしますが、信託では「受託者」という第三者の手で財産管理や処分を行うことになります。委託者の所有権は、信託契約や遺言、公正証書などで受託者の信託財産とするのが一般的です。
 

信託財産の名義人となった受託者は、信託財産について唯一、管理や処分できる権限を持つ者となる訳です。しかし、管理や処分できる権利を行使する場合、受託者は受益者の為にのみ、その目的のために任務を遂行する必要があります。
 

ここが、銀行での長期間管理と家族などの知人に託す信託と大きく異なるポイントで、受託者との信認関係が前提となる以上、万が一の場合は財産を持ち逃げされる可能性もゼロではないリスクにはなります。 
 
民事信託の活用事例
では、「民事信託」は具体的にどのようなケースで行われるのか、その活用事例をご紹介していきます。
ケース1:認知症後も孫などに贈与を継続したい
相続税対策のために、これから10年かけて預金等を孫たちに贈与していきたいと考えているが、最近物忘れが激しく、自分の健康状態が心配である場合など、既に判断能力が低下している場合には、任意後見制度又は法定後見制度を利用するのが一般的ですが、これに代わる機能として、あるいは成年後見制度を補完するために、信託制度を活用することが考えられます。
ケース2:事業継承への対応「跡継ぎ問題」など
中小企業などの事業承継問題では、代表取締役兼株主である自分の亡き後、経営権の行方をどうするかは重要な問題になります。自分が亡くなった後、例えば妻に自社株を譲って経営を任せるけど、妻も亡くなった後は経営能力のある次男に会社を任せたいといった場合、遺言書では二次相続以降の相続までは指定できないため、民事信託のひとつである“後継ぎ遺贈型受益者連続信託”を利用することができます。
・後継ぎ遺贈型受益者連続信託とは?
後継ぎ遺贈型受益者連続信託(あとつぎいぞうがたじゅえきしゃれんぞくしんたく)とは、受益者の死亡によって、次に指定された者が新たな受益者(第二次受益者、第三次受益者・・・)として受益権を順番に取得する旨の定めた信託のことを言います。後継ぎ遺贈型受益者連続信託の最大の特徴は、信託が持つ「権利転換機能」を活かした相続や事業承継が利用できる点です。
本来、所有者Xさんが持っている遺産を相続人Yに相続させると、Yは受け取った遺産を自分固有の財産として自由に扱うことができます(Yが承継した財産を誰に相続させるかはYの自由)。しかし、後継ぎ遺贈型受益者連続信託を利用することで、Yの相続した財産は固有の財産ではなく「信託受益権」という権利を相続したことになり、Yが死んだ後は誰に相続されるかは、最初の遺産を持っていたXが自由に決めることが可能になります。
つまり、後継ぎ遺贈型受益者連続信託によって、二次相続以降の様々なニーズに柔軟に対応できる仕組みが生まれるということです。
 

ケース3:子供がいない夫婦の場合
被相続人Pさんは、自分が死んでしまった後は妻に不自由なく生活してもらいたいと考えて、遺産をすべて譲りたいと考えていますが、妻もいずれは死んでしまうので、その遺産を承継した後に死亡すると子供のいないPさんの家系で代々引き継いできた不動産は、妻の親族側であるQさんに渡ることになってしまう。Pさんとしては、もし妻が死んだら不動産はすべて、自分の親族である弟のRさんの家族に遺したいと希望しているケースです。
・解決策
この場合、まずPさんとXさんの間で信託契約を締結し、PさんはXに不動産等の財産を託して、Xが受益者に生活費の給付等を担う旨を定め、Pさんの生存中はPさん、Pさんの死亡後は妻が受益者となり、妻が死亡したら信託は終了し、残余財産の帰属先にXさんを指定します。
これにより、「自分亡きあとの妻の生活保障」および「先祖代々引き継いできた不動産の承継」の両方の問題に対応することが可能となります。 

  
2:民事信託でできる5つの機能
さて、活用事例がわかったところで、民事信託で出来ることをもう少し具体的にご紹介していこうと思います。
 

1:生前の財産管理が自由にできる
すでになんとなくおわかりかと思いますが、民事信託は被相続人が今まで築き上げてきた財産について、自分の死後にその利用方法を予め決めておくことができます。信託財産は「家族のために活かすのか」「投資的な行為を行うのか」その選択も自由に設定が可能になります。
 

財産の自由な分配方法などを決めるのは遺言書などがパッと思いつくかもしれませんが、遺言では自分の財産を誰に渡すかを決めることはできますが、財産を貰った相続人が、その財産を次に誰に渡すかまで決めることはできません。

また、成年後見制度でも、本人の家族の利益のために財産を処分することなどもできませんでしたので、従来の制度では実現できなかった、自分が生きている間に、自由な財産管理が可能になります。
 

2:財産の管理や処分を1人に集約させつつ利益は分配できる
民事信託の良いところは、財産の管理処分権を信頼できる一人(受託者)に集約できる点です。受託者はその利益を複数の人に分配することも可能になりますので、だれが財産を管理するのかで揉める可能性もだいぶ低く抑えられるでしょう。
 

例えば、不動産が共有状態だと共同相続人全員の同意がないと売却もできなくなりますが、民事信託を設定することで受託者1人の意見で売却が可能になります。その場合でも、収益や処分益は分配することもできますので、家族間での財産の公平な配分を実現することができます。
 

3:遺産相続の分割方法を詳細に決められる
「ケース2」などでも出てきましたが、会社などの事業継承において自分の持ち株を誰に渡して、経営権は誰に託すのかなど、家族間での対話を通じて、条件付きの財産承継などを行うことができます。
 

これは一般家庭でも同じで、遺産分割の期間や分割方法や割合を受託者が中心となって、生前から行うことができますので、相続人全員が納得のできる相続のありかたを作り出すこともかのうになります。
 

4:3代先の数次相続まで決定できる
遺言書などでは、自分が死んだ際の遺産相続しか指定はできません。例えば「ケース3」の例では、もし遺言でXに財産を承継させるには、

  1. ①:Pさんによる「妻に全財産を相続させる」遺言
  2. ②:妻による「Xに全財産を遺贈する」遺言


この2つが必要になります。しかし、妻は遺言を撤回することも可能ですし、必ずしもPさんの希望どおりXが確実に資産を承継できるという保証はないので、二世代、三世代先の相続まで考えるのであれば、民事信託は便利な制度と言えます。
 

5:現行の相続制度に対して多くの面で万能
現行の遺言や成年後見制度の問題点に対して、多くの面で優れているという点が、民事信託にはあります。
 

1:遺言書の問題

  • 一方的な意思の伝達
  • 本人が1人で書くとミスがあったち意思が伝わりづらい
  • 1つ先の代しか相続内容を決められない
  • 遺言書は書き換えができてしまう など

2:成年後見制度の問題

  • 財産はすべて家庭裁判所の監督下に置かれてしまう
  • 本人の財産をすべて開示しなければいけない
  • 財産を家庭裁判所の監督のもと後見人が管理することになる
  • 毎年の収支報告が驚くほど大変
  • 大きな財産を動かす際は家庭裁判裁所との打ち合わせや許可が必要 など

3:共有財産になった物の扱いが不便
不動産などが共有状態になると、共有者全員が所有権を持つことになるため、話がまとまらず、不動産は凍結状態になる可能性が高いです。
 

4:法定相続分では兄弟はすべて均等という一応の縛り
本来は寄与分や特別受益の制度がありますが、実際は使われていないのが現場です。本人に対する貢献度や迷惑度などはなかなか考慮されず、すべて均等に配分しなければならない点や、自宅を分けようと思っても分けられず、結果売却を余儀なくされるケースなど。
 

もちろん、法定相続分に従う必要は必ずしも無いのですが、誰もが自分が一番遺産を欲しいと思っている為、なまじ財産が500万円や1000万円を超えてくれば欲に目がくらむものです。
 

最初から自分で決められる自由があるのも考えものですので、ある程度主導的立場のある人間が管理したほうが、争いも少なくなります。こういった現行の制度では対処できない問題を、民事信託を活用することで解決出来ることは多くあります。 
 
3:民事信託を行うべき6つのメリットまとめ
民事信託や活用事例、機能などを確認してきたところで、民事信託を行うメリットをまとめてみました。
 

1:通常の遺言では対応できない細かい要望に応えられる
遺言書は自分が希望する相手に財産を渡せる非常に便利な制度ですが、以下のようなニーズには対応することができません。
 

  1. 1:遺産を年金形式で毎月定額で受けとれるようにしてほしい。
  2. 2:相続人や受遺者が一定の年齢になったら遺産を渡してほしい
  3. 3:相続人などが将来その遺産を使いきれずに死亡したら、次の財産の貰い手を指定したい
  4. 4:特定の目的のために遺産を活用してほしい など


遺言は誰に相続するかは決められますが、「遺産の使い道」「その次の相続の内容」を決められないため、「信託」という法律行為を利用することで、これらの要望にも応えることが可能になります。
2:成年後見では対応できない財産管理の要望に応えられる
たとえば、判断能力の低下した高齢者の方や障がい者の財産管理の手段として利用されるのは成年後見制度ですが、成年後見制度は、本人の財産を減らさないように財管理するのが目的のため、

  1. 1:判断能力低下後も積極的な資産運用をしたい。
  2. 2:判断能力低下後も相続税対策として生前贈与を継続していきたい など

こういった要望に応えるようにはできていませんので、「信託」という法律行為を利用することで、使い勝手のよい財産管理の手法として利用することが可能になります。
 

3:不動産の共有化に伴うリスクが回避できる
案外これが最も大きなメリットになる方も多いと思いますが、「共有不動産については、共有者全員の協力がスムーズに得られない可能性がある」というリスクを回避することができます。所有権ではなく「信託受益権」として共有し、不動産の管理処分権限だけを受託者に集約させることで、不動産の“塩漬け”を防ぐことが可能です。
 

4:委託者の意思が100%受け継がれる
委託者の意思能力が将来的に低下した場合でも正常な判断ができるうちに自分の財産を信託しておくことで、受託者による財産の管理運用が可能となります。
 

5:倒産隔離機能がある
主に企業側のメリットですが、信託財産は委託者から受託者に移転されるので、委託者が倒産しても影響を受けず、受託者が分別管理等の義務を果たしていれば、受託者からの独立性が法的に担保されており、受託者が倒産しても影響を受けません。
 

6:後継ぎ遺贈型受益者連続信託が使える
先ほど少し説明してしまいましたが、1代先までしか相続する人を決められない遺言書とは違い、2次受益者、3次受益者と、3代先にまで財産を取得する人を決めておくことができます。これは被相続人の細かい要望に応えられると共に、代々の資産を他の家系に渡ることがないようにできるため、会社のオーナーなどであれば経営権をうまく譲渡することができるメリットがあります。 
 
4: 民事信託を行うための3つの方法
民事信託を実際に行う方法は難しくなく、「信託契約」「遺言」「自己信託」の3つの方法で行うことができます。
 

信託契約
信託契約で行う場合は、
1:委託者と受託者が信託目的を決める
2:信託財産の管理処分方法と受益者を決めて契約締結をする
この手順で完了します。この際、受益者は必ずしも関与しなくても成立しますが、できれば受益者も含めて内容を決めていくことが良いでしょう。もし難しいようでしたら、弁護士などに相談することでスムーズに進むでしょう。
 

遺言によって決定する
信託の内容としては信託契約によるものと同じですが、民事信託が開始するのは委託者が死亡した時になります。ただし、実務上は信託契約を締結し、「遺言代用信託」が利用されるケースが多くなっています。詳しくは「弁護士にご相談ください」
 

自己信託
法律的には「信託宣言」と呼ばれる制度になりますが、委託者が受託者にもなる形態です。委託者と受託者が同一人物の場合、周りからそれが明確に判断できない為、自己信託は公正証書で行うケースが一般的になっています。

公正証書の扱いに関しては専門家にお尋ねいただくのが良いかと思います。 

 
5:民事信託を行う際の税金の問題
民事信託では、受益者や受益権の中身によって課税関係や課税金額が変わります。民事信託を設定すると、所有権名義が受託者に移転することになりますので、もしかすると受託者に対して贈与税が課税されると思われる方がいらっしゃいますが、受託者はあくまでも管理・処分する権限しか持っていないので、信託財産から生じる収益権は受益者にあります。
 

つまり、税務上は受益者を所有者に置き換えて課税されることになります。
 

課税対象になる方とならない方
課税対象者は受益者
税務上、委託者から受託者へ相続も(贈与)で財産権が移転したとみなされますので、信託設定したと同時に、相続税もしくは贈与税が課税されることになります。
 

受託者は非課税
もし委託者が受益者となる自己信託の場合、元々所有権を持っていた委託者が受益者になっていますので、税務上の変化はなく、課税対象にはなりません(自益信託)。 
 
民事信託における税金の考え方
日本の税務では「実体主義」「受益者負担」の原則があり、誰の名義であろうと、契約形態がどうなっていよう「実際に利益を受けている者」に対して課税される仕組みがあります。
 

つまり、前述のように委託者=受託者の場合は何の権利も取得してはいないので「パス・スルー」という考え方になる訳です。

  • 委託者の生前に受益者に権利が移る:贈与税
  • 委託者の死亡を条件として移れば:相続税
  • 受益権が売買された場合:所得税・法人税


上記の3つの税金が課せられ、その他の各種税金も信託の存在とは無関係に課税されます。これの例外は名義所有者である受託者が固定資産税の納税義務者になりますが、所有者はもともと委託者である受益者なわけですから、実質的にはパス・スルーになります。
民事信託は節税にはならないが流通税の節税にはなる
上記のように、結局何か財産を得たときには無関係に税金の対象になるので、一般的には「民事信託は節税にならない」とされていますが、流通税に関しては大幅な節税ができます。
流通税(りゅうつうぜい)とは
資産(財産)の権利移転(所得)に課税される租税のことで、「国税⇒内国税⇒流通税」となる。日本の税制度では、自動車重量税、登録免許税、不動産取得税、印紙税等が流通税に当たる。
たとえば、「会社や法人への所有権の移転」を阻害する要因として不動産取得税や登録免許税がありましたが、民事信託であればパス・スルーの概念から、委託者に対して譲渡所得税や受託者に対する不動産取得税の課税はありませんし、登録免許税も所有権移転の5分の1で済みます。
もし所有者が相続で得た数十億円の価値がある不動産を、管理会社に所有権移転しようとして、数億円もの税金がかかったという例もありますが、信託をすることで登録免許税のみの数百万円で済みます。


まとめ
 
民事信託の基本的な概念やメリットなどをご紹介してきました。多くのメリットや現行の遺言や後見成年制度にはない機能も多くありましたが、受益権によって財産の承継が行われた場合でも、遺留分を侵害することはできませんので、この点には注意する必要があります。
 

受益権を特定の人に合った形で信託契約をしてしまうと、他の相続人から遺留分減殺請求を受ける可能性もありますので、やはり事前に相続人同士でよく話あう場を設けるのは必須だといえますね。
 

成年後見制度

【きっかけベスト5】

  • 第1位 預貯金等の管理・解約
  • 第2位 施設入所等のための介護保険契約
  • 第3位 身上監護
  • 第4位 不動産の処分
  • 第5位 相続手続き


圧倒的に多いのが、本人の預貯金等の管理のためです。この他にも、保険金の受取や訴訟手続等のために成年後見制度を利用するケースが増えています。                       
 
 成年後見制度を利用するには一定の要件を満たす必要があります。また、成年後見制度は法定後見制度と任意後見制度の2つに分けられます。どういう時にどの制度を選択するのかについては医師等の鑑定も必要な場合もあるので判断が難しいのですが、ここでは簡単な事例を挙げてどの制度を選択できるのかを見ていきましょう
(なお、財産管理委任契約は成年後見制度ではありません。)  
              
年金生活の一人暮らしのおばあちゃんが訪問販売で必要もない高額な商品を買ってしまう
        ⇒任意後見制度もしくは法定後見制度

              
夫に先立たれてしまい一人で過ごす老後が不安・・・夫が残してくれたマンションの経営や、将来お世話になるかもしれない老人ホームの入所手続を代わりにやってもらいたい
        ⇒任意後見制度もしくは財産管理委任契約

              
兄が認知症の母と同居しているが、どうやら兄が勝手に母のお金を使っているらしい
        ⇒法定後見制度

              
うちの一人息子は生まれたときから重度の知的障害者で、私たち両親が亡くなった後のことが心配だ
        ⇒法定後見制度

              
高齢のため体が不自由で要介護認定を受けているが、特に認知症ではない。出歩くのも大変なため預金の管理等が困難なので代わりにお金の管理をしてくれる人が欲しい
        ⇒財産管理委任契約

              
最近、物忘れが激しくアルツハイマーの疑いがあり、一人暮らしのため老後がとても不安だ
        ⇒任意後見制度もしくは法定後見制度

              
寝たきりの祖母からお金の管理を頼まれたため、きちんと祖母のお金の管理をしているにもかかわらず、叔父や叔母からなにかと疑われてしまう
        ⇒法定後見制度

              
認知症の母の不動産を売却して老人ホームの入所費用にあてたい
        ⇒法定後見制度

                                        
判断能力が衰える前
      
判断能力が衰えた後
      
任意後見制度
      
法定後見制度
      
 将来のために自分を援助してくれる人や、援助してくれる内容をあらかじめ決めておくことができます
      
 法定後見制度は既に精神上の障害がある場合に利用できます。障害の程度によって後見、保佐、補助に分けられます
      
※成年後見制度を利用しても日用品の購入やその他日常生活に関する行為は、本人
     が単独で行うことができます
    ※居住用の不動産を売ったり貸したりするには、家庭裁判所の許可が必要です

成年後見制度は精神上の障害 (知的障害、精神障害、認知症など)により判断能力が十分でない方が不利益を被らないように 家庭裁判所に申立てをして、その方を援助してくれる人を付けてもらう制度です。

 また、成年後見制度は精神上の障害により判断能力が十分でない方の保護を図りつつ自己決定権の尊重、残存能力の活用、 ノーマライゼーション(障害のある人も家庭や地域で通常の生活をすることができるような社会を作るという理念)の理念をその趣旨としています。 よって、仮に成年後見人が選任されてもスーパーでお肉やお魚を買ったり、お店で洋服や靴を買ったりするような日常生活に必要は範囲の行為は本人が自由にすることができます。                      

 
 平成24年における成年後見関係事件の申立件数は合計で約3万5000件、同年末時点の成年後見制度の利用者は約16万6000人にのぼり、 ここ数年は毎年1万人以上のペースで増加しています。日本は超高齢化社会に突入しているので、今後も利用者数の増加が見込まれます。

 男女別割合は、男性が約4割、女性が約6割となっており、男女とも80歳以上の利用者が最も多く、 65歳以上の利用者は、男性では男性全体の6割以上、女性では女性全体の8割以上を占めています。

 成年後見登記制度は、法定後見制度と任意後見制度の利用の内容、成年後見人の権限や任意後見契約の内容などをコンピューターシステムにより法務局で登記して、登記官が登記事項証明書を発行して情報を適正に開示することによって、判断能力の衰えた方との取引の安全を確保するための制度です。

 以前は戸籍に記載されていましたが、プライバシーの保護や成年後見制度の使い勝手を考慮して成年後見登記制度が新たに作られました。本人や成年後見人から請求があれば法務局から登記事項証明書が発行され、これを相手方に示すことによって安全で円滑な取引ができることになります。

ここでは、家庭裁判所に成年後見の申し立てをした後の手続きの流れをみていきましょう。なお、申立てから審判までの期間は事案にもよりますが、2ヶ月以内で審判に至るのが全体の約8割で、制度開始当初と比べると審理期間は大幅に短縮しています。
 
家庭裁判所への申し立て
      
※申立書類
             
家庭裁判所の調査官による事実の調査
     
申立人、本人、成年後見人(保佐人、補助人)候補者が家庭裁判所に呼ばれて事情を聞かれます
              
精神鑑定 ※鑑定費用は5〜10万円
     
 
実際に精神鑑定がおこなわれるのは稀で、申立て全体の約1割に過ぎません
              
審 判
      
申立書に記載した成年後見人(保佐人、補助人)候補者がそのまま選任されることが多いですが、場合によっては家庭裁判所の判断によって弁護士や司法書士等が選任されることもあります
              
審判の告知と通知
      
裁判所から審判書謄本をもらいます
              
法定後見開始 ※東京法務局にその旨が登記されます

成年後見制度は法定後見制度と任意後見制度からなり、法定後見制度はさらに後見、保佐、補助の3つに分けることができます。任意後見制度は本人の判断能力が衰える前から利用できますが、法定後見は判断能力が衰えた後でないと利用できません。
                              
成年後見制度
      
法定後見
      
任意後見
      
後見 / 保佐 / 補助
    ※判断能力が衰えた後
      

    ※判断能力が衰える前 
 
 法定後見制度は、後見、保佐、補助の3つに分かれ、本人の精神上の障害の程度によって区別されます。なお、申立全体の約8割が後見で、保佐、補助は圧倒的に少ないです。

後見】 ほとんど判断出来ない人を対象としています。
 精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力を欠く常況にある者を保護します。大体、常に自分で判断して法律行為をすることはできないという場合です。
 家庭裁判所は本人のために成年後見人を選任し、成年後見人は本人の財産に関するすべての法律行為を本人に代わって行うことができます。また、成年後見人または本人は、本人が自ら行った法律行為に関しては日常行為に関するものを除いて取り消すことができます。

保佐】 判断能力が著しく不十分な人を対象としています。
 精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力が特に不十分な者を保護します。簡単なことであれば自分で判断できるが、法律で定められた一定の重要な事項については援助してもらわないとできないという場合です。
 家庭裁判所は本人のために保佐人を選任し、さらに、保佐人に対して当事者が申し立てた特定の法律行為について代理権を与えることができます。また、保佐人または本人は本人が自ら行った重要な法律行為に関しては取り消すことができます。

補助】 判断能力が不十分な人を対象としています。
 精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力が不十分な者を保護します。大体のことは自分で判断できるが、難しい事項については援助をしてもらわないとできないという場合です。
 家庭裁判所は本人のために補助人を選任し、補助人には当事者が申し立てた特定の法律行為について代理権または同意権(取消権)を与えることができます。