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信託制度

1.信託とは
信託とは、(1)特定の者(受託者)が、(2)財産を有する者(委託者)から移転された財産(信託財産)につき、(3)信託契約、遺言または公正証書等による自己信託により(信託行為)、(4)一定の目的(信託目的)に従い、(5)財産の管理または処分およびその他の当該目的の達成のために必要な行為をすることです。(信託法2条1項)
 
2.信託の起源は?
  信託は,中世ヨーロッパにおいて十字軍の遠征に参加する兵士が,信頼のおける友人を受託者として土地を信託し、帰還するまでもしくは万一の戦死に備えて家族のために管理運用させて,その収益を兵士の家族に給付させ所有地が没収されず承継されるようにしたことが起源の1つとして取り上げられています。
 
3.信託の特徴は?
  通常、自分が所有権を有する財産は自分でまたは他人に委託して管理もしくは処分しますが、信託では「受託者」という第三者によって長期にわたり財産管理・処分を行うことになります。
  委託者の所有権は、契約・遺言・公正証書等によってする意思表示(「信託行為」といいます)で受託者に移転されて、受託者の信託財産となります。受託者は信託財産の名義人となり、信託財産について唯一、管理もしくは処分できる権限がある者となります。しかし、その管理もしくは処分できる権利を行使する場合は、信託の際に締結された契約の目的に拘束され、受託者は、受益者のためのみに任務を遂行しなければなりません。ここが、長期間の管理もしくはノウハウがいる処分について他人に託す通常の方法と異なる大きなポイントで、受託者との信認関係が前提となる仕組みです。

 
4.信託の機能とは?
(1)財産権の性状の転換
  委託者は、信託前は財産に対して所有権という物権的権利を持っていましたが、信託によって、そこから生じる利益を受け取るという債権的権利(「受益権」といいます)に変わります。つまり、財産権の性状が変わることになります。
(2)主体の転換
  委託者の所有権が受託者に移転して、それを受託者が管理もしくは処分することで受託者の信用・ノウハウを活用することができます。つまり、委託者や受益者の事情に左右されずに、当初結んだ信託契約の目的に沿った財産の管理もしくは処分が可能となります。また、利益を得る受益者を変更・承継により転換できます。
(3)倒産隔離
ア.委託者からの倒産隔離
  信託財産は受託者に移転されるので、原則、委託者の倒産の影響を受けません。(ただし、債務者である委託者が、その債権者を害することを知りながら、自己の債務を逃れるために信託を設定したような場合、受託者が善意であっても当該信託は債権者詐害信託となり、委託者の債権者、当該信託を訴えによって取り消すことができる、とされています。)
イ.受託者からの倒産隔離
  信託財産は、受託者が分別管理等の義務を果たしていれば、受託者からの独立性が法的に担保されており、受託者の倒産の影響を受けません。

 
5.民事信託とは?
  「信託業法」では、「信託の引き受けを営業」として行おうとする場合には、免許が必要と規定しています。「営業」とは、営利を目的として、不特定多数の者を相手に、反復継続して行われる行為をいいます。
  そこで、営利を目的とせず、特定の1人から1回だけ信託を受託しようとする場合には、信託業の免許は不要だと考えられますが、このような信託を「民事信託」と呼びます。また、今日では、財産の管理、財産の承継を目的とする信託、管理できない人に代わって管理して生活に必要な給付を確実にする信託、自己の判断能力の低下、死亡に備えて財産の管理・承継をする信託、高齢者・障害者等の財産管理・身上監護に配慮した生活支援のための信託などの信託を民事信託と呼んでいます。
  「民事信託」を使って委託者と受託者との間の信託契約をオーダーメイドで設計することにより、個人や中小企業等でも容易に活用ができることになります。

民事信託とは、受託者が限定された特定の者を相手として、営利を目的とせず、継続反復しないで引き受ける信託のことで、信託銀行の取り扱う信託商品や投資信託(商事信託)とは違い、財産の管理や移転・処分を目的に家族間で行うものとされています。
 

委託者と受託者の間で独自の信託契約を締結することで、様々なコストを抑えることができ、主に①自己信託、②限定責任信託、③知的財産権の信託、④金銭信託などがあります。
 

民事信託の中でも、『家族による家族のための民事信託』とされているものがあり、家族が財産の預り手(財産管理をする者)となり、「高齢者や障がい者のための安心円滑な財産管理」や「柔軟かつ円滑な資産承継対策」を実現しようとする民事信託の形態を『家族信託』と呼んでいたりもします。
 

あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、民事信託には遺言書や成年後見制度ではできない相続対策も多くあり、相続分野の専門家のあいだでは注目されつつある相続方法ではあるので、今回は、そんな民事信託についてご紹介していこうと思います。 
 
1:民事信託の基本的な概要
まずは民事信託の基本的な概念についてご説明していこうと思います。民事信託(みんじしんたく)は、信託銀行の取り扱う信託商品や投資信託(商事信託)とは違うということはお話ししましたが、具体的にどういった仕組みなのかを見ていきましょう。
 

民事信託の仕組み
民事信託には3人の登場人物が出てきて、財産を持っている受遺者(被相続人)、財産を管理する受託者(相続人など)、利益を得る受益者(他の相続人など)の3人から成り立ちます。
 

  • 委託者:財産を持っている人
  • 受託者:財産を管理する人
  • 受益者:利益を享受する人
  • ※信託監督人:受託者を監督する人

 
まず、委託者が個人の目的のために受託者に財産を預け、最初は受益者が利益を受け取ります。この時、委託者、受託者、受益者の3者の他に、信託を管理監督する信託監督人を設置することもできます。要は受託者がちゃんと仕事をしているか監督する人ですね。

民事信託は受益者のための制度でもありますが、受益者がちゃんとした意思表示をできないケースもありますし、一度受託者になった方の権限が強いということもあり、受託者を監督する人も必要になるケースもあります。 

 
一般的な信託との違い
一般的に言う「信託」とは、信託銀行等が行う「遺言書の作成 + 遺言書の保管 + 遺言執行」がセットになった「遺言信託」のこと、あるいは「投資信託」を思い浮かべる方が多いと思います。これが一般的な信託で、「銀行が関与するもの(商事信託・営業信託のこと)」と覚えておいて問題ないと思います。
一方「民事信託」は、「受託者が信託報酬を得るために行うもの」という基本的な仕組みは同じですが、商事信託とは反対に、受託者が信託報酬を得ない信託(=非営利信託)であり、受託者は個人でも法人でも誰でもなることが可能です。
 

財産の管理を「信じられる人に託す相手を自分の家族・親族にする」ことが多いので、家族や親族を受託者として財産管理を任せる仕組みを「家族信託」と呼んでいたりもします。
 

つまり、

  • ・一般的な信託 = 銀行が報酬をもらって行うもの
  • ・民事信託   = 家族が報酬を得ずに行うもの

 
このように覚えておくと良いと思います。信託は信託銀行が資産家を対象にした少々難しいイメージを持っているかもしれませんが、実は「信託」は一般の方に取っても大変身近なものと言っていいでしょう。
 

信託法の施行で生まれた新しい制度
信託法は大正11 年に出来たものでしたが、平成19年9月30日に新たな信託法が施行され、それまでは信託銀行などの信託業者しか信託を使うことができない、営利を目的にする「商事信託」が中心でしたが、改正によって営利を目的にしない民事信託や家族信託の仕組みを作ることができるようになったのです。 
 
信託にはリスクもある
通常、自分が所有している財産は自分で処分したり、他人に管理を委託して処分したりしますが、信託では「受託者」という第三者の手で財産管理や処分を行うことになります。委託者の所有権は、信託契約や遺言、公正証書などで受託者の信託財産とするのが一般的です。
 

信託財産の名義人となった受託者は、信託財産について唯一、管理や処分できる権限を持つ者となる訳です。しかし、管理や処分できる権利を行使する場合、受託者は受益者の為にのみ、その目的のために任務を遂行する必要があります。
 

ここが、銀行での長期間管理と家族などの知人に託す信託と大きく異なるポイントで、受託者との信認関係が前提となる以上、万が一の場合は財産を持ち逃げされる可能性もゼロではないリスクにはなります。 
 
民事信託の活用事例
では、「民事信託」は具体的にどのようなケースで行われるのか、その活用事例をご紹介していきます。
ケース1:認知症後も孫などに贈与を継続したい
相続税対策のために、これから10年かけて預金等を孫たちに贈与していきたいと考えているが、最近物忘れが激しく、自分の健康状態が心配である場合など、既に判断能力が低下している場合には、任意後見制度又は法定後見制度を利用するのが一般的ですが、これに代わる機能として、あるいは成年後見制度を補完するために、信託制度を活用することが考えられます。
ケース2:事業継承への対応「跡継ぎ問題」など
中小企業などの事業承継問題では、代表取締役兼株主である自分の亡き後、経営権の行方をどうするかは重要な問題になります。自分が亡くなった後、例えば妻に自社株を譲って経営を任せるけど、妻も亡くなった後は経営能力のある次男に会社を任せたいといった場合、遺言書では二次相続以降の相続までは指定できないため、民事信託のひとつである“後継ぎ遺贈型受益者連続信託”を利用することができます。
・後継ぎ遺贈型受益者連続信託とは?
後継ぎ遺贈型受益者連続信託(あとつぎいぞうがたじゅえきしゃれんぞくしんたく)とは、受益者の死亡によって、次に指定された者が新たな受益者(第二次受益者、第三次受益者・・・)として受益権を順番に取得する旨の定めた信託のことを言います。後継ぎ遺贈型受益者連続信託の最大の特徴は、信託が持つ「権利転換機能」を活かした相続や事業承継が利用できる点です。
本来、所有者Xさんが持っている遺産を相続人Yに相続させると、Yは受け取った遺産を自分固有の財産として自由に扱うことができます(Yが承継した財産を誰に相続させるかはYの自由)。しかし、後継ぎ遺贈型受益者連続信託を利用することで、Yの相続した財産は固有の財産ではなく「信託受益権」という権利を相続したことになり、Yが死んだ後は誰に相続されるかは、最初の遺産を持っていたXが自由に決めることが可能になります。
つまり、後継ぎ遺贈型受益者連続信託によって、二次相続以降の様々なニーズに柔軟に対応できる仕組みが生まれるということです。
 

ケース3:子供がいない夫婦の場合
被相続人Pさんは、自分が死んでしまった後は妻に不自由なく生活してもらいたいと考えて、遺産をすべて譲りたいと考えていますが、妻もいずれは死んでしまうので、その遺産を承継した後に死亡すると子供のいないPさんの家系で代々引き継いできた不動産は、妻の親族側であるQさんに渡ることになってしまう。Pさんとしては、もし妻が死んだら不動産はすべて、自分の親族である弟のRさんの家族に遺したいと希望しているケースです。
・解決策
この場合、まずPさんとXさんの間で信託契約を締結し、PさんはXに不動産等の財産を託して、Xが受益者に生活費の給付等を担う旨を定め、Pさんの生存中はPさん、Pさんの死亡後は妻が受益者となり、妻が死亡したら信託は終了し、残余財産の帰属先にXさんを指定します。
これにより、「自分亡きあとの妻の生活保障」および「先祖代々引き継いできた不動産の承継」の両方の問題に対応することが可能となります。 

  
2:民事信託でできる5つの機能
さて、活用事例がわかったところで、民事信託で出来ることをもう少し具体的にご紹介していこうと思います。
 

1:生前の財産管理が自由にできる
すでになんとなくおわかりかと思いますが、民事信託は被相続人が今まで築き上げてきた財産について、自分の死後にその利用方法を予め決めておくことができます。信託財産は「家族のために活かすのか」「投資的な行為を行うのか」その選択も自由に設定が可能になります。
 

財産の自由な分配方法などを決めるのは遺言書などがパッと思いつくかもしれませんが、遺言では自分の財産を誰に渡すかを決めることはできますが、財産を貰った相続人が、その財産を次に誰に渡すかまで決めることはできません。

また、成年後見制度でも、本人の家族の利益のために財産を処分することなどもできませんでしたので、従来の制度では実現できなかった、自分が生きている間に、自由な財産管理が可能になります。
 

2:財産の管理や処分を1人に集約させつつ利益は分配できる
民事信託の良いところは、財産の管理処分権を信頼できる一人(受託者)に集約できる点です。受託者はその利益を複数の人に分配することも可能になりますので、だれが財産を管理するのかで揉める可能性もだいぶ低く抑えられるでしょう。
 

例えば、不動産が共有状態だと共同相続人全員の同意がないと売却もできなくなりますが、民事信託を設定することで受託者1人の意見で売却が可能になります。その場合でも、収益や処分益は分配することもできますので、家族間での財産の公平な配分を実現することができます。
 

3:遺産相続の分割方法を詳細に決められる
「ケース2」などでも出てきましたが、会社などの事業継承において自分の持ち株を誰に渡して、経営権は誰に託すのかなど、家族間での対話を通じて、条件付きの財産承継などを行うことができます。
 

これは一般家庭でも同じで、遺産分割の期間や分割方法や割合を受託者が中心となって、生前から行うことができますので、相続人全員が納得のできる相続のありかたを作り出すこともかのうになります。
 

4:3代先の数次相続まで決定できる
遺言書などでは、自分が死んだ際の遺産相続しか指定はできません。例えば「ケース3」の例では、もし遺言でXに財産を承継させるには、

  1. ①:Pさんによる「妻に全財産を相続させる」遺言
  2. ②:妻による「Xに全財産を遺贈する」遺言


この2つが必要になります。しかし、妻は遺言を撤回することも可能ですし、必ずしもPさんの希望どおりXが確実に資産を承継できるという保証はないので、二世代、三世代先の相続まで考えるのであれば、民事信託は便利な制度と言えます。
 

5:現行の相続制度に対して多くの面で万能
現行の遺言や成年後見制度の問題点に対して、多くの面で優れているという点が、民事信託にはあります。
 

1:遺言書の問題

  • 一方的な意思の伝達
  • 本人が1人で書くとミスがあったち意思が伝わりづらい
  • 1つ先の代しか相続内容を決められない
  • 遺言書は書き換えができてしまう など

2:成年後見制度の問題

  • 財産はすべて家庭裁判所の監督下に置かれてしまう
  • 本人の財産をすべて開示しなければいけない
  • 財産を家庭裁判所の監督のもと後見人が管理することになる
  • 毎年の収支報告が驚くほど大変
  • 大きな財産を動かす際は家庭裁判裁所との打ち合わせや許可が必要 など

3:共有財産になった物の扱いが不便
不動産などが共有状態になると、共有者全員が所有権を持つことになるため、話がまとまらず、不動産は凍結状態になる可能性が高いです。
 

4:法定相続分では兄弟はすべて均等という一応の縛り
本来は寄与分や特別受益の制度がありますが、実際は使われていないのが現場です。本人に対する貢献度や迷惑度などはなかなか考慮されず、すべて均等に配分しなければならない点や、自宅を分けようと思っても分けられず、結果売却を余儀なくされるケースなど。
 

もちろん、法定相続分に従う必要は必ずしも無いのですが、誰もが自分が一番遺産を欲しいと思っている為、なまじ財産が500万円や1000万円を超えてくれば欲に目がくらむものです。
 

最初から自分で決められる自由があるのも考えものですので、ある程度主導的立場のある人間が管理したほうが、争いも少なくなります。こういった現行の制度では対処できない問題を、民事信託を活用することで解決出来ることは多くあります。 
 
3:民事信託を行うべき6つのメリットまとめ
民事信託や活用事例、機能などを確認してきたところで、民事信託を行うメリットをまとめてみました。
 

1:通常の遺言では対応できない細かい要望に応えられる
遺言書は自分が希望する相手に財産を渡せる非常に便利な制度ですが、以下のようなニーズには対応することができません。
 

  1. 1:遺産を年金形式で毎月定額で受けとれるようにしてほしい。
  2. 2:相続人や受遺者が一定の年齢になったら遺産を渡してほしい
  3. 3:相続人などが将来その遺産を使いきれずに死亡したら、次の財産の貰い手を指定したい
  4. 4:特定の目的のために遺産を活用してほしい など


遺言は誰に相続するかは決められますが、「遺産の使い道」「その次の相続の内容」を決められないため、「信託」という法律行為を利用することで、これらの要望にも応えることが可能になります。
2:成年後見では対応できない財産管理の要望に応えられる
たとえば、判断能力の低下した高齢者の方や障がい者の財産管理の手段として利用されるのは成年後見制度ですが、成年後見制度は、本人の財産を減らさないように財管理するのが目的のため、

  1. 1:判断能力低下後も積極的な資産運用をしたい。
  2. 2:判断能力低下後も相続税対策として生前贈与を継続していきたい など

こういった要望に応えるようにはできていませんので、「信託」という法律行為を利用することで、使い勝手のよい財産管理の手法として利用することが可能になります。
 

3:不動産の共有化に伴うリスクが回避できる
案外これが最も大きなメリットになる方も多いと思いますが、「共有不動産については、共有者全員の協力がスムーズに得られない可能性がある」というリスクを回避することができます。所有権ではなく「信託受益権」として共有し、不動産の管理処分権限だけを受託者に集約させることで、不動産の“塩漬け”を防ぐことが可能です。
 

4:委託者の意思が100%受け継がれる
委託者の意思能力が将来的に低下した場合でも正常な判断ができるうちに自分の財産を信託しておくことで、受託者による財産の管理運用が可能となります。
 

5:倒産隔離機能がある
主に企業側のメリットですが、信託財産は委託者から受託者に移転されるので、委託者が倒産しても影響を受けず、受託者が分別管理等の義務を果たしていれば、受託者からの独立性が法的に担保されており、受託者が倒産しても影響を受けません。
 

6:後継ぎ遺贈型受益者連続信託が使える
先ほど少し説明してしまいましたが、1代先までしか相続する人を決められない遺言書とは違い、2次受益者、3次受益者と、3代先にまで財産を取得する人を決めておくことができます。これは被相続人の細かい要望に応えられると共に、代々の資産を他の家系に渡ることがないようにできるため、会社のオーナーなどであれば経営権をうまく譲渡することができるメリットがあります。 
 
4: 民事信託を行うための3つの方法
民事信託を実際に行う方法は難しくなく、「信託契約」「遺言」「自己信託」の3つの方法で行うことができます。
 

信託契約
信託契約で行う場合は、
1:委託者と受託者が信託目的を決める
2:信託財産の管理処分方法と受益者を決めて契約締結をする
この手順で完了します。この際、受益者は必ずしも関与しなくても成立しますが、できれば受益者も含めて内容を決めていくことが良いでしょう。もし難しいようでしたら、弁護士などに相談することでスムーズに進むでしょう。
 

遺言によって決定する
信託の内容としては信託契約によるものと同じですが、民事信託が開始するのは委託者が死亡した時になります。ただし、実務上は信託契約を締結し、「遺言代用信託」が利用されるケースが多くなっています。詳しくは「弁護士にご相談ください」
 

自己信託
法律的には「信託宣言」と呼ばれる制度になりますが、委託者が受託者にもなる形態です。委託者と受託者が同一人物の場合、周りからそれが明確に判断できない為、自己信託は公正証書で行うケースが一般的になっています。

公正証書の扱いに関しては専門家にお尋ねいただくのが良いかと思います。 

 
5:民事信託を行う際の税金の問題
民事信託では、受益者や受益権の中身によって課税関係や課税金額が変わります。民事信託を設定すると、所有権名義が受託者に移転することになりますので、もしかすると受託者に対して贈与税が課税されると思われる方がいらっしゃいますが、受託者はあくまでも管理・処分する権限しか持っていないので、信託財産から生じる収益権は受益者にあります。
 

つまり、税務上は受益者を所有者に置き換えて課税されることになります。
 

課税対象になる方とならない方
課税対象者は受益者
税務上、委託者から受託者へ相続も(贈与)で財産権が移転したとみなされますので、信託設定したと同時に、相続税もしくは贈与税が課税されることになります。
 

受託者は非課税
もし委託者が受益者となる自己信託の場合、元々所有権を持っていた委託者が受益者になっていますので、税務上の変化はなく、課税対象にはなりません(自益信託)。 
 
民事信託における税金の考え方
日本の税務では「実体主義」「受益者負担」の原則があり、誰の名義であろうと、契約形態がどうなっていよう「実際に利益を受けている者」に対して課税される仕組みがあります。
 

つまり、前述のように委託者=受託者の場合は何の権利も取得してはいないので「パス・スルー」という考え方になる訳です。

  • 委託者の生前に受益者に権利が移る:贈与税
  • 委託者の死亡を条件として移れば:相続税
  • 受益権が売買された場合:所得税・法人税


上記の3つの税金が課せられ、その他の各種税金も信託の存在とは無関係に課税されます。これの例外は名義所有者である受託者が固定資産税の納税義務者になりますが、所有者はもともと委託者である受益者なわけですから、実質的にはパス・スルーになります。
民事信託は節税にはならないが流通税の節税にはなる
上記のように、結局何か財産を得たときには無関係に税金の対象になるので、一般的には「民事信託は節税にならない」とされていますが、流通税に関しては大幅な節税ができます。
流通税(りゅうつうぜい)とは
資産(財産)の権利移転(所得)に課税される租税のことで、「国税⇒内国税⇒流通税」となる。日本の税制度では、自動車重量税、登録免許税、不動産取得税、印紙税等が流通税に当たる。
たとえば、「会社や法人への所有権の移転」を阻害する要因として不動産取得税や登録免許税がありましたが、民事信託であればパス・スルーの概念から、委託者に対して譲渡所得税や受託者に対する不動産取得税の課税はありませんし、登録免許税も所有権移転の5分の1で済みます。
もし所有者が相続で得た数十億円の価値がある不動産を、管理会社に所有権移転しようとして、数億円もの税金がかかったという例もありますが、信託をすることで登録免許税のみの数百万円で済みます。


まとめ
 
民事信託の基本的な概念やメリットなどをご紹介してきました。多くのメリットや現行の遺言や後見成年制度にはない機能も多くありましたが、受益権によって財産の承継が行われた場合でも、遺留分を侵害することはできませんので、この点には注意する必要があります。
 

受益権を特定の人に合った形で信託契約をしてしまうと、他の相続人から遺留分減殺請求を受ける可能性もありますので、やはり事前に相続人同士でよく話あう場を設けるのは必須だといえますね。
 

成年後見制度

【きっかけベスト5】

  • 第1位 預貯金等の管理・解約
  • 第2位 施設入所等のための介護保険契約
  • 第3位 身上監護
  • 第4位 不動産の処分
  • 第5位 相続手続き


圧倒的に多いのが、本人の預貯金等の管理のためです。この他にも、保険金の受取や訴訟手続等のために成年後見制度を利用するケースが増えています。                       
 
 成年後見制度を利用するには一定の要件を満たす必要があります。また、成年後見制度は法定後見制度と任意後見制度の2つに分けられます。どういう時にどの制度を選択するのかについては医師等の鑑定も必要な場合もあるので判断が難しいのですが、ここでは簡単な事例を挙げてどの制度を選択できるのかを見ていきましょう
(なお、財産管理委任契約は成年後見制度ではありません。)  
              
年金生活の一人暮らしのおばあちゃんが訪問販売で必要もない高額な商品を買ってしまう
        ⇒任意後見制度もしくは法定後見制度

              
夫に先立たれてしまい一人で過ごす老後が不安・・・夫が残してくれたマンションの経営や、将来お世話になるかもしれない老人ホームの入所手続を代わりにやってもらいたい
        ⇒任意後見制度もしくは財産管理委任契約

              
兄が認知症の母と同居しているが、どうやら兄が勝手に母のお金を使っているらしい
        ⇒法定後見制度

              
うちの一人息子は生まれたときから重度の知的障害者で、私たち両親が亡くなった後のことが心配だ
        ⇒法定後見制度

              
高齢のため体が不自由で要介護認定を受けているが、特に認知症ではない。出歩くのも大変なため預金の管理等が困難なので代わりにお金の管理をしてくれる人が欲しい
        ⇒財産管理委任契約

              
最近、物忘れが激しくアルツハイマーの疑いがあり、一人暮らしのため老後がとても不安だ
        ⇒任意後見制度もしくは法定後見制度

              
寝たきりの祖母からお金の管理を頼まれたため、きちんと祖母のお金の管理をしているにもかかわらず、叔父や叔母からなにかと疑われてしまう
        ⇒法定後見制度

              
認知症の母の不動産を売却して老人ホームの入所費用にあてたい
        ⇒法定後見制度

                                        
判断能力が衰える前
      
判断能力が衰えた後
      
任意後見制度
      
法定後見制度
      
 将来のために自分を援助してくれる人や、援助してくれる内容をあらかじめ決めておくことができます
      
 法定後見制度は既に精神上の障害がある場合に利用できます。障害の程度によって後見、保佐、補助に分けられます
      
※成年後見制度を利用しても日用品の購入やその他日常生活に関する行為は、本人
     が単独で行うことができます
    ※居住用の不動産を売ったり貸したりするには、家庭裁判所の許可が必要です

成年後見制度は精神上の障害 (知的障害、精神障害、認知症など)により判断能力が十分でない方が不利益を被らないように 家庭裁判所に申立てをして、その方を援助してくれる人を付けてもらう制度です。

 また、成年後見制度は精神上の障害により判断能力が十分でない方の保護を図りつつ自己決定権の尊重、残存能力の活用、 ノーマライゼーション(障害のある人も家庭や地域で通常の生活をすることができるような社会を作るという理念)の理念をその趣旨としています。 よって、仮に成年後見人が選任されてもスーパーでお肉やお魚を買ったり、お店で洋服や靴を買ったりするような日常生活に必要は範囲の行為は本人が自由にすることができます。                      

 
 平成24年における成年後見関係事件の申立件数は合計で約3万5000件、同年末時点の成年後見制度の利用者は約16万6000人にのぼり、 ここ数年は毎年1万人以上のペースで増加しています。日本は超高齢化社会に突入しているので、今後も利用者数の増加が見込まれます。

 男女別割合は、男性が約4割、女性が約6割となっており、男女とも80歳以上の利用者が最も多く、 65歳以上の利用者は、男性では男性全体の6割以上、女性では女性全体の8割以上を占めています。

 成年後見登記制度は、法定後見制度と任意後見制度の利用の内容、成年後見人の権限や任意後見契約の内容などをコンピューターシステムにより法務局で登記して、登記官が登記事項証明書を発行して情報を適正に開示することによって、判断能力の衰えた方との取引の安全を確保するための制度です。

 以前は戸籍に記載されていましたが、プライバシーの保護や成年後見制度の使い勝手を考慮して成年後見登記制度が新たに作られました。本人や成年後見人から請求があれば法務局から登記事項証明書が発行され、これを相手方に示すことによって安全で円滑な取引ができることになります。

ここでは、家庭裁判所に成年後見の申し立てをした後の手続きの流れをみていきましょう。なお、申立てから審判までの期間は事案にもよりますが、2ヶ月以内で審判に至るのが全体の約8割で、制度開始当初と比べると審理期間は大幅に短縮しています。
 
家庭裁判所への申し立て
      
※申立書類
             
家庭裁判所の調査官による事実の調査
     
申立人、本人、成年後見人(保佐人、補助人)候補者が家庭裁判所に呼ばれて事情を聞かれます
              
精神鑑定 ※鑑定費用は5〜10万円
     
 
実際に精神鑑定がおこなわれるのは稀で、申立て全体の約1割に過ぎません
              
審 判
      
申立書に記載した成年後見人(保佐人、補助人)候補者がそのまま選任されることが多いですが、場合によっては家庭裁判所の判断によって弁護士や司法書士等が選任されることもあります
              
審判の告知と通知
      
裁判所から審判書謄本をもらいます
              
法定後見開始 ※東京法務局にその旨が登記されます

成年後見制度は法定後見制度と任意後見制度からなり、法定後見制度はさらに後見、保佐、補助の3つに分けることができます。任意後見制度は本人の判断能力が衰える前から利用できますが、法定後見は判断能力が衰えた後でないと利用できません。
                              
成年後見制度
      
法定後見
      
任意後見
      
後見 / 保佐 / 補助
    ※判断能力が衰えた後
      

    ※判断能力が衰える前 
 
 法定後見制度は、後見、保佐、補助の3つに分かれ、本人の精神上の障害の程度によって区別されます。なお、申立全体の約8割が後見で、保佐、補助は圧倒的に少ないです。

後見】 ほとんど判断出来ない人を対象としています。
 精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力を欠く常況にある者を保護します。大体、常に自分で判断して法律行為をすることはできないという場合です。
 家庭裁判所は本人のために成年後見人を選任し、成年後見人は本人の財産に関するすべての法律行為を本人に代わって行うことができます。また、成年後見人または本人は、本人が自ら行った法律行為に関しては日常行為に関するものを除いて取り消すことができます。

保佐】 判断能力が著しく不十分な人を対象としています。
 精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力が特に不十分な者を保護します。簡単なことであれば自分で判断できるが、法律で定められた一定の重要な事項については援助してもらわないとできないという場合です。
 家庭裁判所は本人のために保佐人を選任し、さらに、保佐人に対して当事者が申し立てた特定の法律行為について代理権を与えることができます。また、保佐人または本人は本人が自ら行った重要な法律行為に関しては取り消すことができます。

補助】 判断能力が不十分な人を対象としています。
 精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力が不十分な者を保護します。大体のことは自分で判断できるが、難しい事項については援助をしてもらわないとできないという場合です。
 家庭裁判所は本人のために補助人を選任し、補助人には当事者が申し立てた特定の法律行為について代理権または同意権(取消権)を与えることができます。